第404話 譲渡
「……でも、力を受け取るってどうしたらいいんだ? 俺の方で何かすることがあるなら……ちょっとよく分からないぞ」
俺が老ゴブリンに言うと、彼は笑って言う。
「いや、気にする必要はないとも。見るに、お主は《オリジン》になって、まだ間もない様子。それでは大したことは出来まい……。わしの方で、全て整えるよ。ただ、必要なことをはわしを信じてもらうことくらいじゃが……これは難しいかもしれんな」
「……どうしてだ?」
俺が首を傾げると、老ゴブリンは真面目な顔になって、言う。
「分からないか? わしは先ほど、《オリジン》なら何でも出来ると、そう言ったじゃろう。つまり、お主の体を奪うことすらも可能じゃということじゃ。それなのに、わしに身を委ねる、そんなことが簡単にできると思うのか?」
そう言われて、俺は驚く。
別に老ゴブリンの力にそんな可能性があるということに驚いたわけじゃない。
そうではなく……。
「あんたがそんなことするはずないだろう」
そう確信していたからだ。
これには老ゴブリンの方が驚いた顔をして、
「お主……何を言っておる。不用心すぎんか?」
とさらに呆れた顔になった。
しかし俺は老ゴブリンに言う。
「いや、冷静に判断してさ。自分の世界がこんなにまでなることが分かっていて……なお、他人の世界は奪えない、なんて考える人に、そんなこと出来るとは思えないんだよ。そうだろ?」
「……! お主……じゃが、先ほどの言葉は全てわしの虚言だったかもしれんぞ? それならば……」
「だとすれば、余計にそんなことは言わないだろう。あんたは素直に、何も言わずに俺の体を奪えばいいだけだ。なのにあんたはわざわざ丁寧に説明してくれた。この時間だって、そんなことするくらいなら無駄だろ?」
「まぁ……そうかもしれんが」
「な、俺は冷静だろう。もちろん、あんたが信用できるって、そう感じるのも大きいんだけどさ」
なんだかんだ、それが一番の理由ではあるのが、俺の甘いところなのかもしれない。
ただ、俺はこの老ゴブリンの感覚に、共感したのだ。
選べない選択肢を前に、善であることを優先した。
天秤にかけて……そして、最後の責任を今、取ろうとしている。
これは気高いあり方だろう。
そんな人物を、信じられない人間にはなりたくなかった。
なってしまえば、俺はいつか、他の世界を奪う《オリジン》になるのではないか。
そんな予感もあった。
そんな俺に、老ゴブリンはため息をつき、
「……お主の考えは分かった。信頼も受け取ろう。じゃが、一つだけ言っておく」
「なんだ?」
「わし以外の《オリジン》にあっても、今日のように信用してはならぬ。よく見て、よく考え、友にも恋人にも相談し、そして決めるのじゃ。でなければお主のような奴はすぐに自分の命を捨てかねん……」
「なんだか覚えがありそうな台詞だな?」
「これだけ生きておればな。お主のような良い若者には何度も会った。惜しい命じゃった……わしなどより、遙かに。じゃから、お主は生きよ。消えてはならぬ。お主の世界もじゃ。仮にお主がいつか他の世界を奪うとしても、わしは責めぬし、その責任はわしが取ろう。やろうと思えば、今日お主の存在を、わしは絶てるのじゃからな」
「怖いこと言うなよ。それにもしそんなことになったら……責任はしっかり自分で取るさ。それくらいはな」
「……そうか。心強き若者じゃの。よし、これ以上はしんみりしてしまう。さっそくやるぞ。手を出せ。そこからわしの力を注ごう。もしかしたらかなり苦痛を伴うかもしれんが……心を強く持て。お主なら、出来るじゃろう……」
がしっ、と手を取ってから、老ゴブリンは言った。
えっ、ちょっと待っ……、と言う前に、それは始まってしまう。
激痛が、繋がれた手を通じてせり上がってきた。
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