第403話 世界の影
「……力を受け取るって……どういうことだ? そもそもそんなこと出来るのか?」
首を傾げる俺に老ゴブリンは言う。
「出来るとも。《オリジン》に出来ないことはない。決意と覚悟があるならば、な。それでも自分の世界をこんな風にしてしまったわしが言えることではないかもしれんが……」
「……いや、そんな……」
このゴブリンが、この世界をこうした。
ある面では確かにそうなのだろう。
けれど、このゴブリンが全ての責任を負わなければならないとか、そういうわけでもないだろうと思う。
他の世界を奪わなければならないというのが、その言葉通りの意味なのだとしたら、そんな選択肢を選べなかったということは、決して罪にはならないだろうから。
それでも、自分を責めずにはいられないという気持ちも理解できるが。
……俺が同じ立場だったら。
どうするんだろうな。
いつか、地球も同じようなことになるのか?
俺は他の世界を侵略しないとならないのか?
そんなこと、俺に選べるのか?
だが、家族や、ギルドメンバーたち、それに地球に住まう人たちのことを考えると……。
俺がたとえ極悪人だと言われようと、それを選びたくもなるかもしれない。
考えることが多すぎて、パンクしそうだ。
でも俺は《オリジン》。
考えなければならないのだろう。
その時が来るとしたら。
そんな俺の苦悩に気付いたのか、老ゴブリンは気遣わしげに言う。
「……お主がいつか、わしと同じ選択をするのか、そうはしないのかはわからん。じゃが、考えすぎることもない。《オリジン》は世界に一人とは限らん。一人で責任を負う必要もない。残念ながら、この世界には一人しか生まれんかったが」
「そういうものなのか?」
「そもそもの条件が厳しいからのう。ゴブランの者たちは、実直すぎる者が多くてな。ここに来るまでに戦ったのではないか?」
「……あのゴブリンたち?」
ブラックゴブリンや、その他の武人気質に思えたゴブリンたちを思い出す。
あれらが、この世界の……。
「彼らは、あくまでも名残、世界の影に過ぎぬが、それでもその本質は写しておる。でなければ、力を発揮できんゆえな」
「世界の影……」
「世界の影とは、実体に対する虚、映された何かじゃが……まぁ分かりやすく言うなら、お主の世界にもわしらの影があるじゃろう」
「え?」
「迷宮から来たんじゃろう? そこにゴブリンはいなかったのか?」
「いや、いたけど……あれが、影?」
「本物の影とは違うぞ。世界の影じゃ。この世界にあった、実体から生まれた影。本来は迷宮だけで存在できる儚い存在……なのじゃが、時としてそれは迷宮から一歩出て、実体を得る。お主の世界では、迷宮から出たゴブリンはいるかの?」
言われて、魔境のことを頭に浮かぶ。
「……いる」
「おぉ、それは……。良いことを聞いた。であれば、やはりお主をここに呼べたのは幸いじゃった。それに、お主にとってもこれはメリットがある。さっき、わしの力をお主に渡すと言ったじゃろう」
「あ、あぁ……でもそれが?」
「わしはこの世界で、王じゃった。国の王というわけではない。ゴブリンという種族、その全てを統べる王じゃった。《オリジン》の力をもって、そうなった。その力をお主に全て渡す」
「……それって、大丈夫なのか? とんでもないことなんじゃ。そもそも、あんたはどうなる。あんたが俺の世界に来ればそれでいいんじゃないか? あんたはここにいるんだ。生きてるんだから……ゴブリンの何かを繋げたいっていうなら、あんたが……」
「それは無理じゃ。残念じゃがな。わしがこうして存在しているのは、あくまでもこの世界に無理に生かされているに過ぎん。わしが楔となって、ただお主のような存在が来ることを待つために。目的を果たせば、わしは消える。跡形もなく」
「そんな……」
「悲しむ必要はあるまい? 先ほど初めて会ったばかりなんじゃからな、お主とわしは」
「だけど……でも」
他人事とは思えないし、このゴブリンが善性の存在であることを、俺は感じていた。
それに話していて、大きな器を感じる。
王だと言われても納得出来るだけの、器を。
「少しでも悲しんでくれるのであれば……わしの最後の願いだけ、叶えてくれれば良い。それと、そうじゃな。わしのことを覚えていてくれればそれでな」
なんと答えたらいいのか、迷った。
だけど、これに対して、断れる気はしなかった。
俺は言う。
「……分かった」
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