第412話 山
「……そこそこ遠かったな……」
青梅線に揺られること一時間半。
俺たちは軍畑駅に降り立っていた。
それもこれも、全ては、はぐれゴブリンのせいであるのは言うまでもない。
「仕方ないじゃない。目撃したの、山登り中の登山客だったんだから。それにしても奥多摩は空気がいいわね……」
周囲を見るに山だらけだ。
というかこの辺に来るのは現地民か登山客しかいないだろう。
家屋とか……まぁないこともないんだろうが。
それにしても魔物が出るにはおあつらえ向きかもしれないな。
都心と比べたら遙かに人は少ないし、山の方に向かってしまえば人間に出くわすこともなくなっていく。
魔物であれば地球の動物なんて相手にならないし、もしかしたらパラダイスであるのかもしれない。
下手に人間に見つかると、俺たちのような冒険者がやってきて駆除をすることもあるだろうが……今のところ、人間に被害は特にないらしいしな。
山も荒らされてるみたいなこともないようだ。
単純に、はぐれゴブリンと思しきものが何度か目撃された、というだけで。
温厚なゴブリンなのかもしれないな。
魔物に対して変な評価かもしれないが、そうであってくれれば、俺たちの目的から考えるとありがたい。
「ま、空気がいいのは確かだ。ちょうどいいリフレッシュにもなるかもな。やること考えると体力勝負感もあるが……冒険者の肉体なら大したこともないだろうし」
「登山はそれでも慣れてないと疲労がたまるわよ。それに私たち、登山道とか関係なく歩く予定だからね。絶対に普通の人なら出来ないしやらないことだわ」
「そりゃ危なすぎるからなぁ……遭難の危険駄々上がりだし。一応GPSとか持ってきてるから大丈夫だろうが」
いざとなれば遭難してもなんとでも出来る。
そう言い切れる肉体を持っているからこそ出来る捜索を俺たちはする予定だった。
「それで、ここで待ち合わせなんだけど……どこかしら」
駅から少し歩いたところできょろきょろと雹菜がし始めたので、俺もそうすると、
「お、あの人じゃないか?」」
少し離れた場所に場違いな格好で突っ立っている一人の若い女性を発見する。
雹菜が、
「そうね、間違いないわ。黒田さ~ん!」
そう言って手を振りながら、駆け足で近づいたので俺も続く。
その人は本当にもの凄い格好だった。
上下真っ黒な、いわゆるゴスロリ服を纏っていて、しっかりとフリルのついた傘まで持っている。
日傘として確かに役には立つだろうが……これから山に入ろうという格好とはまるで思えない。
事実、俺と雹菜は割と普通の登山用の装備である。
冒険者向け、とかではないから、魔物と戦うのには向いてないんだけどな。
まぁ、そう考えると何着ても一緒なのか。
「あっ、白宮さん! こないだ振りです~! 今日はご依頼、本当にありがとうございます! それにしても、実際に見るとやっぱり可愛い! 会えてうれしいです」
その黒田、という女性は全体的にダークな世界観をオーラとして纏ってはいたが、そうして口を開いて笑顔になると、むしろかわいらしさが際立つ。
雰囲気も電波っぽい感じでなく、俺は雹菜の後ろでひそかにホッとした。
ちゃんとしたタイプの趣味の人だと。
少し構えてしまった。
「こちらこそ……それで、黒田さん、こっちがこないだ話した、うちのメンバーの……」
「天沢創です。よろしくお願いします」
「
深々と頭を下げるその様子に、少しでも見た目で判断しようとしていたことを俺は深く恥じる。
でも、やっぱりどこかで登山するんだけどその格好は……と思ってしまうところはあった。
その心配が杞憂であったことを、俺は後で知る。
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