第147話 先行者
「……おや? 君たちは……」
俺たちが扉に近づくと、向こう側も気付いたらしい。
相談事をしていても、警戒は解かない。
冒険者の基本だ。
ただ、実践できる者はF級には少ないが、ここにかなり早く到着しているだけあって、優秀なのだろうと思われた。
「警戒させて、すまない。向こうから姿が見えたから、入るつもりならその後に近づこうと思ったんだが、相談事してるみたいだったからな」
俺がそう言うと、そこにいる四人組のパーティー、その中でもリーダーと思しき青年が柔らかな笑みを浮かべて、
「それは気を遣わせて悪かったね……もちろんだが、君達も受験者だよね?」
と尋ねてくる。
この迷宮は試験に使われているとはいえ、一般の冒険者も普通に探索している。
というか、それを止める方法はない。
先んじて入っている人間もいるだろうし、何日も潜り通しの冒険者だっているものだ。
その全員が出るまで待っていることは不可能ではないが、そんなことをしたらそこが試験会場だとバレてしまうしな。
「あぁ、そうだ。結構早く着いたつもりだったんだが、残念ながら一番乗りじゃないらしい」
肩をすくめてそう言うと、向こうも笑う。
「一番乗りは、多分僕らだね……おっと、自己紹介がまだだった。僕たちは《碧風の騎士》所属で、僕は
「いや、いいんじゃねぇか? そう言うのも含めて冒険者の実力だしな」
これはカズの言葉だ。
柄が基本的に悪いだけあって、清濁合わせのむ度量がある気がする。
いかにも冒険者らしくて、悪くないな。
これは向こうも同感のようで、
「そう言ってもらえると助かるよ。君も……なんか揉めてたの見てたけど、受かりそうだな……受かった後は、臨時パーティーを組んだりすることもあるかも。あぁ、それでこっちのメンバーが……」
それから蓮は他のメンバーを紹介してくれた。
全員が友好的な表情と雰囲気で、感じは悪くない。
お互いに潰し合い、と言うことはなさそうだな。
それを双方確認したところで、俺は言った。
「それで……どうする? 先に入るか? そろそろ後続も迫ってるだろうし、どっちにしろ早く決めたいんだ。急かすつもりないんだけど……」
「いや、分かるよ。うーん、悩ましいんだけど……僕たちはちょっと決めかねててね……」
「どうしてだ?」
「一人、少し負傷してね。遅効性の麻痺毒だったみたいで、命には別状ないんだけど、もう十分ばかり時間が必要そうなんだよ」
「そうか……じゃあ、それくらい待ってればいいか?」
ボス部屋の優先権というのは微妙な問題だ。
先に辿り着いた者が主張出来るのが通常だが、こうやって後続が来て、先についたものが少し時間が、となると揉めたりもする。
だからお互いに探り探りになっていたわけだ。
でも、俺たちはその辺りの探り合いは終えた。
だからこその単刀直入な聞き方だった。
これに蓮は、
「いや、それもそれこそ悪いしさ。先に行ってもらって構わないよ」
「いいのか?」
「君たちだから、正直なことを言うけれど……ここのボス部屋は、外から中を見ることが出来るんだ。だから、まぁ……」
「なるほどな。俺たちに先に戦わせて、様子を見たい?」
「そういう下心もある。代わりと言ってはなんだけお、やばそうな時は僕たちも中に入って加勢するよ。ここの扉は閉まらないはずだからね」
「それはそれで、蓮たちが楽できる感じになるけどな……」
「だけど、問題なければ君たちがきっと一番乗りだ。合格間違いなしだよ?」
この言葉に、俺たちは四人でアイコンタクトをする。
まぁ、全員がそれでいいんじゃない?と言う雰囲気だ。
この辺は適当に決めるのも問題だが、考えすぎても仕方ない。
そもそもこの四人だけでボス部屋に挑むつもりだったのだしな。
問題ないだろう。
俺は頷いて、
「分かった。じゃあ、先に挑戦させてもらおう。検討を祈っててくれ」
そして、俺たちはボス部屋の扉を開いた。
*****
「リーダー? よかったのぉ?」
《碧風の騎士》所属、新進気鋭のパーティーである蓮たち《月風の騎士》のメンバーである宮本梨花が、蓮にそう尋ねた。
その意味は明らかで、あの創という少年が率いるパーティーに先を譲ってもよかったのか、ということだ。
蓮は先ほどの柔らかな笑みより、少しばかり真剣な表情で梨花に言う。
「いいさ。というか彼らは……いや。創くんはちょっと最近珍しいくらいに印象的だったからね。彼の戦い方は、見ておきたかった」
「印象的って?」
メンバーの一人、及川潤が訪ねる。
「……誤解を恐れずに言えば、異様と言ってもいいかもしれない。僕の《鑑定》では何も見えなかった……こんなことは初めてだったよ」
「えぇ。やばいやつなのか……?」
パーティー最年少の月ヶ瀬竜が怯えたように訪ねるが、蓮は笑って、
「いや、感じは良かったし、嘘をついてる様子もなかったからね。そんなことはないと思うけど……ま、合格したら、祝賀会とかあるだろ? そういうところで親交を深めておきたい相手かな」
「まるで受かったみたいに……まぁ受かるけどねぇ」
梨花が言う。
「あぁ、頑張ろう、みんな」
《月風の騎士》のメンバーはそんな蓮の言葉に頷いたのだった。
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