第34話 検証

「……えっ、嘘だろ!?」

 

 そんなつぶやきが俺の口から出てしまったのも仕方の無い話だと思う。 

 何せ、たった今、俺は見つけたゴブリンと戦ったのだが……。


「一撃、ね……やるじゃない。まぁゴブリン程度、このくらいの速さで倒してもらわないと困るのだけど」


 そう、俺はゴブリンを一撃で倒すことに成功していた。

 先ほどはあれほど苦戦して、ギリギリの勝負の結果、なんとか勝てた相手なのに、だ。

 もちろん、俺の剣術の技量とかが急に上がったわけでもなく、つまりこれは……。


「スキルの力って、こんなに凄いんだな……」


 そういうことになる。

 俺が今使っているのは、先ほど発動させるのに成功した《最下級身体強化》だ。

 というか、今はこれしか使えないからこれだけを頼りにやるしかない。

 他のスキルも、同じ原理で使えるようになる可能性は高いのだが、調整するのにそれなりに時間を取られることが既に分かっている。

 魔力を流す速度とか、位置とかそういうのを正確に意識しないとならないため、すぐにまねを、というのは今はまだ難しい。

 あくまで、今は、だが。

 原理が分かった今、やるべきことははっきりと見えている。

 何度も同じ作業を繰り返していけば、いずれは短時間で他人のスキルを自分のものに出来る日も来るのではないだろうか。

 夢が広がるな。

 ともあれ、今は、現在の俺の実力についてだ。


「確かに、《最下級身体強化》を使えるだけでも大分違うものよ。大体、通常時の五割増し程度にはなると言われているし……でも、創の場合はちょっと違うかも?」


 雹菜が少し不思議そうにそう呟く。


「どういうことだ?」


「実のところ、貴方が豚鬼将軍を倒したときにも思っていたのだけど、創がスキルを発動した場合、通常のスキルよりも威力が高い気がするのよね。スキルを通さないで発動してるからそういうことになっている、と考えるのが自然だけど……どうしてかしら」


「それは俺にも分からないが……でも、本当なのか? 俺の使ってるものの方が、威力が高いって」


「さっきまで半信半疑だったけど、こうしてしっかりと見れば間違いないわね。だって創の速度も力も、五割増し程度じゃ説明がつかないくらいに上がっているもの」


「それは俺もそう感じる。倍くらいかな?」


「ええ。そうなると、《下級身体強化》くらいはあるわね。こうなってくると《下級身体強化》も使ってみて欲しいけど……」


「下級スキルは多分、結構覚えるのに時間かかるぞ。《最下級身体強化》は魔力を縄跳びくらいの縄状にしてただ結べば良かったけど、《下級身体強化》はコードくらいの奴を太い血管みたいな行き渡らせ方をしてた記憶があるからな」


「……それは私も知ってる。見たことあるしね。私も発動させられるけど、確かに魔力は体をそんな風に流れているわ」


 鏡には魔力は映って見えないけれど、それでも自分で視認できる範囲の体に流れる魔力は見ることが出来る。

 だから、それで観察したのだろう。

 

「下級スキルは大体、それくらいの細かさが多いから、やっぱりすぐには。とりあえず最下級スキルを身につけてって、慣れてからかなと思ってる」


「その方針で正しいでしょうね。それに、今戦ってた様子を見れば、創はしばらくの間、最下級スキルだけでも十分に戦っていけるわ。加えて、魔物を倒した場合、相手からエネルギーを得られる……はずなんだけど、おかしいわね。創にゴブリンのエネルギーが流れていく様子がなかった……」


 一般的には、魔物を倒すことによって、その魔物の力の一部を得ることが出来る、と言われている。

 ただ、それをはっきり観測できたものはいない。

 それでもそう言われるのは、迷宮でたくさんの戦いを乗り越えてきた者は、素の身体能力からして大きく一般人から離れているからだ。

 そしてそれは、戦いを経験した量や質が高ければ高いほど、顕著である。

 

「ゴブリンのエネルギー……っていうと、魔力のことだよな」


「ええ。私が見られるのは、今は魔力だけだしね。他の冒険者が魔物と戦って倒すのを何度となく見てるんだけど、倒したあとに、魔力がその冒険者の中に入っていくのよ。普通は」


「そうなのか? 俺はそれ、見たことがないけど……」


「迷宮と魔境だけで見られる現象だからね。魔物を地上施設とかに連れてきてしまうと、魔力は倒した後、霧散してしまうのよね」


 なるほど、と思う。

 俺が、他人が魔物を倒すところを実際にこの目で見たのは、地上の施設でのことだけだ。

 いや、それ以外にも一応あるが、そのときもやはり地上であって、迷宮や魔境でのことではなかったから……。

 雹菜は続ける。


「それに、いつも必ず、確実にエネルギーを得られるというわけではないの。数回に一回ね。ただ、格が上の相手になればなるほど、その可能性は高くなる傾向にあるわ」


「っていうと?」


「私がゴブリンを倒しても、たぶん、五回に一回くらい、わずかなエネルギーを得られるだけだけど、ほとんど迷宮に潜ったことがない創なら、ゴブリンを倒せば必ず得られる、といっても過言ではない、位の感じね」


「なるほど。それなのに俺は……」


「ええ、二回倒しても、その様子がなかったから……うーん、ちょっとこれも考えてみる必要があるわね。とりあえず、私が何回かゴブリン倒してみるから、どんな感じか、見てて」


「あぁ、分かった」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る