第33話 技術の可能性

「……やっぱり、何も出来ないなんてこと、なかったわね」


 雹菜が喜ぶ俺にそう言った。

 俺はことあるごとに、自分がスキルゼロで、何もできない、大した存在じゃないと言い続けた。

 そのことを言っているのだろう。

 後ろ向きすぎたな、と今では思うが、それは……。


「雹菜のお陰だろ」


「え?」


「俺は……ずっとスキルゼロで、何を身につけようとしてもダメで、でも、雹菜とあのとき出会ったから、こうして最下級スキルを発動させることが出来たんだ」


「でも……私がいなくても、いつか自分で気づいて、発動させてたんじゃない? 私がいてもたまたま早まったくらいで……」


「それは多分なかったと思う。俺、就活でどこに行っても門前払いだったからな。で、もうそろそろ高校も卒業だ。冒険者系の高校に行く人間ってのは、そのまま冒険者になるつもりのやつがほとんどだから、大学受験の準備なんてしてるやつ、いないだろう? 俺だってそうだし」


「まぁ、それはそうね。全くのゼロではないし、しばらく冒険者をした後に、冒険者としての実績を持って大学に入る人ならそれなりにいるけれど」


「俺の場合は、完全に全く受験勉強をしてない方だし、当然何の実績もなかったからさ。卒業して、ギルドに入れなかったら、もう、冒険者じゃなくて他の道を目指した方がいいかもって、頭のどっかで思ってたんだ」


 両親は俺のためにお金を貯めてくれていたみたいだけど、知らなかったし。

 となると、家でニートをしているわけにもいかないし、ギルドじゃなくても、普通の職業に就いて働かなければ、とか。

 幸い、スキルはないけど、魔力をある程度操れるだけで一般人と比べたら身体能力が違う。

 体力にものを言わせるようなところでなら、雇ってくれるだろうという目算もあった。

 だから……。


「つまり、私と出会わなければ、冒険者の道は、あきらめてた?」


「きっとな。だから、こうしてスキルを使えてるのは、雹菜のおかげさ。まぁ、雹菜からすれば、豚鬼将軍から俺を守るために立ち向かう羽目になったわけだから、とんでもない迷惑だっただろうけど」


 あの時の事情は彼女から聞いている。

 俺がいなければそのまま、迷宮の入り口までダッシュで逃げていただろうと。

 だから本当に申し訳ない気持ちで今もいっぱいだ。

 しかし雹菜は首を横に振って、


「確かに酷い目に遭ったけど、創が悪いわけじゃないもの。あれは不幸な事故……でも貴方と出会えた。だから、どっちかというとプラスね。それに……今回のこれは、とんでもない発見よ! スキルを使わずに、スキルを発動させるなんて……今まで世界の誰もそんなことしてないと思う」


「そうかな? 俺にも出来たんだし、世界中探せば誰かやってそうだけど」


「勿論、ゼロとは言い切れないけど……でも、こんな技術があったら、誰かが広めていると思うわ。だって創、貴方は理論上、この世に存在するすべてのスキルを使えることになるのよ? これってとんでもない話よ……スキルには向き不向きがあって、自分の適性に合わないものは、ほぼ身につけられない、と言われているのに。私だって、氷結系のスキルは大体取れてるけど、反対属性のものはどれだけ頑張っても取れないし……」


 確かに、そう考えると凄いな。

 俺としては、俺が使えた、ということにこの技術の有用性を感じていたが、雹菜はこの技術の広がりに可能性を感じているらしい。

 どんなスキルでも、使える。

 それは、最強の冒険者への道へと続いているのではないだろうか。

 でも、それなら……。


「雹菜もやってみたらどうだ?」


「え?」


「雹菜も魔力が見えるんだし、同じことすれば使えるんじゃないのか、スキルを使わないスキル」


 俺の言葉に、雹菜は思ってもみなかったことを言われたような顔をして、


「で、でも……私はスキルを使ったやり方しかやったことがないし」


「物は試しだ。それにさっき言ってただろ。これを見つけた人が他にいたら、広めてるだろうって。それは誰でも使える可能性があると思ったからそう言ったんだろ?」


「それは……確かにそうだけど……」


「今なら、俺もさっき雹菜がしてくれたみたいに、体を見てやれるしな」


「かっ、体を……?」


 俺の言葉に自らの体を抱きしめるようにした雹菜を見て、俺は自分の発言がまずい聞こえ方をするものだったことに気づき、慌てて手を振る。


「いやいやいや、そういうことじゃない! そういうことじゃなくて、魔力を、なっ?」


「あ、あぁ……そう、よね。それは当然そうよね……ごめんなさい」


「いや。いいんだけど。で、どうする?」


「そうね……ちょっとだけ、試してみてもいいかしら? 本当なら、このまま創には魔物を何体か倒してもらって、使い心地とか色々試してもらいたかったんだけど」


「まだ時間はあるし、十分二十分試すくらいならいいだろ」


「それもそうね……じゃあ、やってみるから、アドバイスお願いね」


「おう」


 そして、雹菜は先程の俺のように魔力を操ろうと集中を始めた。

 しかし……。


「なっ、何これっ……創、さっきの一体どうやってたの!? 死ぬほど難しいんだけど」


「そう言われてもな……」


 結局、雹菜は一時間かけても、まるで同じことが出来なかった。

 多分、魔力操作の問題なのだろうと思う。

 まず、自らの魔力を紐状にするところからして出来てなかった。

 雹菜は結局、今日のところは諦めて、


「……一日二日でできるとは思えないわ。今日は最初の目的の方を優先しましょう」


「そうだな……次は、スキルを使って魔物と戦えばいいんだよな?」


「ええ、先に行きましょう」


 そして、俺たちは歩き出す。

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