第342話 回収

 ついに俺たちは第四層までやってきた。

 ここまで来ると、マップに載っているような、冒険者たちが狩場とする主要な区画でもほとんど冒険者と出くわさなくなる。

 《実りの森林》の第四層といえば、もうC級くらいからでないと立ち入るのが難しい空間になってくるからだ。

 出現する主な魔物は……。


「……そこからは気をつけて。トレントが集団でいるから」


 雹菜はくなが一応、と言った様子で注意する。

 少し先にはかなり密度の高い森が見えるが、そこからは噴き上がるような魔力を感じた。

 あれはどう考えても自然木が放つものではない。

 迷宮の樹木は深い層になるにつれ、多く魔力を宿すことは知られているが、限度がある。

 やはり、魔物の方がずっと濃く強い魔力を帯びるものだ。

 例外的に強力な魔力を帯びる樹木というのも存在するが、そういうのは聖木せいぼくとか魔木まぼくとか言われるようなものになってくるから、話は別だな。

 そして残念ながら、俺たちの前にそういう樹木は存在しない。

 つまり、そこに生えてる樹木のうち、多くが魔物……トレントのものだ、ということだ。


「で、どうするか。流石に森だから燃やせって訳にもいかないよな」


 一番効率的な方法のようにも思えるが、あの森の中に冒険者がいた場合、ひどいことになる。

 トレントたちの魔力のせいで、俺にはあの中に冒険者がいるのかどうか察知するのが難しいし。

 雹菜と静さんなら見えているだろうか……。

 そんな意味も込めての言葉だった。

 これに雹菜が、


「……正直、別に構わないような気もするわね。幸い、近くには冒険者の気配はないわ。奥の方には気配があるけど……この辺りの樹木って燃えにくいからね。たとえ燃やしたとしても、すぐに鎮火するわ」


「そうなのか?」


「ええ、迷宮の樹木は魔力で身を守っているのか、頑丈なのは知ってるでしょう。だから火にも強いのよ」


「なるほど……じゃあそれで行くか?」


「いえ、でも燃やすとなると、《属性吐息》になるわよね。正直、威力強すぎると怖いから……調整が効くのは確認済みだけど、他のスキルよりミスりやすかったでしょ?」


「あぁ、確かにそれはな……」


 そこで静さんが、


「ここは無難に氷術でいっては? それなら燃えませんし。《属性吐息》の火以外の属性でも構いませんが、やはりコントロールの問題が……」


「まぁ、そうなりますよね……じゃあ、氷術で行くか。標的は……」


「とりあえずそこから先の道の両端に生えてる樹木は、八割方トレントっぽいから、適当に打ち込めば当たるわよ」


「……楽でいいな。みぞれ、《下級氷術》で、樹木に氷の槍を放ってやれ!」


 俺がそう言うと、


「キュキュキュ〜キュッ!」


 霙は少し力をこめて集中し、氷の槍を出現させる。

 それは十本ほどで、全て別方向に飛んでいった。

 いずれも、道の両端にある樹木に命中し、それと同時に、


「ウゴゴ……」「キィィィ」「ボボボボ……」


 などと言う、恐ろしげな風の音のような呻き声が響く。

 やはり、標的にした樹木のほとんどがトレントらしい。

 そして、それらは凍りついていき、最後には根本から抜けて、倒れ落ちた。

 というより、根付いているように見えたそれらは、軽く土の上に立っていただけのようだった。

 まるで根付いているように見える擬態だったのだな。

 流石はトレント……。


「うーん、一撃ね。まぁトレント系は火にも寒さにも弱いから……これだけの出力の氷術なら、一撃なのも納得だわ」


「なんかトレント弱くないか?」


「そういうわけじゃ……ねぇ、静」


「ええ、普通の冒険者ならもっと苦戦すると思いますよ。氷術は珍しいですし、炎術はここでは使い勝手が悪いですし。だから接近戦で挑むことになりますが、物理には滅法強いですからね」


「そういうものか……あっ、そうだ。トレントの素材って結構いい値段で売れるよな。回収しよう」


「……創にとってはそっちが大事なのね……」


「いや、スキル覚えなくて絶望してた時から、魔物の素材でウハウハになるのは夢だったからさ……やっぱり素材の値段の方がたくさん覚えちゃって」


「まぁ、いいわ。流石に全ては回収できないから、いいところを取りましょう。あと、魔石もね」


「あぁ、そうだな」

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