第341話 他のスキル

「……この辺りを中心に木が捩じ切られたのは確かなようですが……」


 静さんがみぞれが《無術》を放った樹木を見て首を傾げながらそう呟いた。


「なんです、何か問題が……?」


 俺がそう尋ねると、静さんは答えた。


「……おかしいのです。ただ捩じ切られただけではなく、樹木の穴の部分にあった質量が、消滅したように消えています」


「ええと、それは……」


「もちろん、自然にそんなこと起こるわけもないので、先ほどの《無術》の効力と見るべきかと」


 静さんの言葉に、雹菜はくなが少し考え込んでから言う。


「……《無術》は、物質自体を消滅させるような……そういう術だということ……? だから、《無》の術と……」


「おそらくは。そもそも、霙ちゃんの扱う《滅尽吐息》自体もそのような性質を持っていたかと思います。ですから、あれも所謂、《無》に起因するスキルなのだと思います」


「なるほど、竜(無)という種族は、やっぱりそういう意味なのね」


「つまり……あれか。《無》という……属性みたいなものがあって、それがこういう性質のものだと」


「まぁ、そうなんじゃないかしら……静もそういう見立てよね」


「はい。それに、この樹木、たった今、鑑定できることを思い出して鑑定してみたのですが……樹木自体の説明……ムクノキという名称の、アサ科ムクノキ属の樹木であるということの他、状態の欄に《従魔の扱う《無》属性の術によってへし折られ、またその幹の一部を消滅させられている。回復には高位の治癒術か、《創造》属性による存在回帰が必要》と書いてあります」


「なんだ、答えじゃない……とりあえず鑑定して貰えばよかったわね」


「いえ、私も少し動転していて……」


 謝り合う二人に、俺は言った。


「霙には驚かされっぱなしだから、それも仕方がないよな……それより、色々と木になる部分があるが、《創造》属性とか聞いたことあるか?」


「いいえ、ないわね」


「私もないです」


「ってことは、誰も身につけてないか、身につけていても口外していないかってとこか。希少な属性なんだろうな」


「そういうことでしょう。ただ、街を歩いていても見たことがないですから、まだ誰も身につけていない方だと私は思いますよ。名前からして、何か凄いことが出来そうに思えますし」


「《創造》だもんなぁ……普通に考えて、神様とかの権能みたいなもんだろう。消滅させられたものを復活させられるなら、なおのことそう推測できる。治癒は消滅させられたものを復活、というよりも、傷口を治す感じだろうしな。それは消滅したものを復活させるんじゃなくて、新しい組織を素早く作り出させるだけだし、腹に空いた穴を治すだけってことだ」


「なるほどね。そういうことかもしれないわね……でも、樹木だったからいいけど、やっぱりこれも人に当たったらまずいものね。封印……とは言わないけど、知らない人がいるところでは使わない方がした方がいいわ」


「それはそうだろうな……普段は……やっぱり《氷術》を駆使していくのがいいかな。あと、《爪術》と《牙術》」


「その三つなら、全く問題ないもの。あぁ、《属性吐息》もねそっちなら普通に使えるんじゃないかしら……威力もそれぞれ見てみたいわ」


 雹菜がそう言ったので、そこから改めてスキルをそれぞれ霙に使ってみてもらった。

 結果として分かったのは、やはりそれらのスキルは非常に有用だ、ということだな。

 《爪術》と《牙術》はいいとして、《下級氷術》も《下級属性吐息》もかなり威力の調整が効いたのだ。

 また、俺の指示によって、氷術の方は結構なバリエーションのある攻撃や防御もこなす優秀な術として扱えるようだし、属性吐息については、《無》と《創造》以外の代表的な属性について、満遍なく使えることから、属性に弱点のある魔物に対して万能の対策となることも分かった。


「この様子なら、もう少し下まで進めるわね」


「……ガンガン行くな。流石に今日はもう良さないか?」


「もうちょっとだけよ。レベル、できれば10まで持っていきたくない?」


 そう言われて、あぁ、と感づく。


「何かそこで変化があるかもしれないからか。まぁ5でもあるかもしれないけど」


「そうね、そこで何かあったら、また10で起こるかどうか確認したいし、やっぱりちょうどいいところかなって」


「分かった。じゃあみんな、進むか」

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