第340話 食事

「……じゃあ、みぞれ。《無術》を……そうだな、あの木に放ってみてくれ!」


 少し離れた位置……十メートルほど先に、幹の太い樹木が生えている。

 あれなら結果も分かりやすいだろうと思った。

 まぁ、そもそも、《無術》が攻撃系の術なのかどうかも分からないので何も起こらないかもしれないが……。

 ただ、《氷術》とか《炎術》とかには、攻撃技ではない術もあるが、攻撃技もあるものなので、《無術》もそれと同じような感じなら、攻撃も出来るものだと推測してのことだった。

 案の定、というべきか、霙は、


「……キュアァ!!」


 と気合いの入った鳴き声と共に、闇色の魔力を集約する。

 これが《無術》の魔力か……俺も真似できるかな?

 《爪術》や《牙術》の魔力の構成も見たが、体の構造は竜と人間で全く違うとはいえ、俺にも扱えそうな感じはあった。

 だとしたら《無術》も……。

 そう思っていると、霙の魔力が完全に練り込まれ、そして霙の目の前に突然、黒色の球体が出現した。

 そしてそれが樹木の方へと発射され……。


 ──ギュルルルル……!!


 樹木に命中すると、物凄い勢いで樹木の幹の中へと突き刺さっていく。

 さらに、幹が不自然に回転運動のようなものを始めた。

 球体が命中した上の部分が右側にバキバキバキ、と倒れていき、そして下の部分は土から引き抜かれるように左側に持ち上がっていく。


「……なんだあれは……」


「分からないけど……捩じ切られてるような感じがするわ……」


「生物に放てば……ちょっと考えたくもないようなダメージを与えますね、あれは……」


 三人でそう呟く。

 そして、込められた魔力が尽きたのか、樹木の動きが一瞬静止し、そして、ドスンと幹が大きく地面に倒れ、また切り株部分は完全に土から引き抜かれたようになった。


「……キュア!」


 トコトコと霙がこっちに駆け寄ってきて、褒めてくれ、とでも言うように鳴いたので、俺はその頭を撫でる。


「よく出来た。偉いぞ! ……偉いのか?」


「指示通り動けたんだから、偉いでしょ」


「……まぁそうだな……なんかご褒美でもあげたいところだが……ん?」


 俺が褒美を上げたい、と意識すると、なぜか不自然に魔力が体から抜かれていく。

 そしてそれの向かう先を見ると、霙の口の中へと吸い込まれていく。


「えっ、ちょっと待った……」


 驚いて拒否の意識をすると、それは止まったが……。


「……キュア……?」


 霙が悲しそうな顔でこちらを見つめた。

 

「あー……ええと? 今のは霙が?」


「キュアっ!」


「そうか……まぁ止めようと思えば止められるっぽいし……いいか。魔力が欲しいなら吸うといい……」


 再度許可の意識をすると、また俺の体から魔力が抜かれ、霙の口元へと流れていった。

 それを観察していた雹菜と静さんが言う。


「……魔力、吸収されているのね」


「霙ちゃんの主食は、魔力ということでしょうか。従魔らしい……のですかね」


「他の従魔はどうなんだろう?」


 誰に尋ねるでもなく疑問を口にすると、これには静さんが答えた。


「聞くところによると、大半は雑食らしいですよ。魔力を吸収するかどうかは……卵の時は皆、吸収するそうですけど、孵化してからはちょっと分からないですね」


「そういうものですか。今度、賀東さんにでも聞いてみないと……」


「それにしても、美味しいのかしらね、魔力。随分と幸せそうな顔をしているけど」


「俺たちには魔力の味までは分からないからなぁ……うまいか、霙」


 尋ねると、霙は満足そうな表情で、


「キュア!」


 と返事をしたのだった。


*****


 後書き


 二話まとめて更新してしまって、飛ばして読んでしまう問題が発生しそうなので、最新話を一旦下書きに戻しました。

 明日改めて公開します。

 よろしくお願いします……。

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