第414話 対話

「……お、本当にいた」


 黒田さんの先導で向かった方角に走ると、俺の索敵にもそれが引っかかった。

 確かに魔力の大きさから見るに、ゴブリンであろう。

 流石に野生動物は魔力なんてほぼ持っていないからな。

 ほぼ、なのは最近そういう野生動物がたまに見つかりだしているからだ。

 だからそうである可能性はゼロではなかったりするが、やはりはぐれゴブリンの方が圧倒的に魔力量が多いはずなので、間違いではないだろう。

  

 事実、その反応のあった場所に辿り着くと、そいつはいた。


「……ゴブリンで間違いないわね」


 雹菜がそう言った。

 俺たちは逃げられないように、とりあえず森の影に隠れて、観察している。


「あぁ……だが、意外だな。服を着ている……」


「そうですね。素っ裸であることまで想定していたのですが」


 黒田さんも不思議そうにそう言った。

 そう、そのゴブリンはしっかりと服を着ているのだ。

 おそらくは子供用と思しきもので、どうやって手に入れたのかがまず気になる。

 まさか襲って?

 いや、その場合には服に血痕などがつくだろう。

 その様子はないし……。

 

「ここからどうするか……とりあえず捕まえるしかないか?」


 俺がそう言うと、雹菜が、


「でもそうすると、非友好的と見なされてしまうかもしれないわ。いきなり襲いかかって来る奴と話したいとか思う?」


 と言ってくる。


「確かにそれはそうだが……そうなると、黒田さんに呼びかけて貰う、しかないが……」


 俺がそう言ってちらり、と黒田さんを見ると、彼女は頷いて、


「構いませんよ。もし襲いかかられても、ゴブリンくらいでしたら私も倒せます」


 そう言った。

 これは虚勢ではなく事実だろう。

 まず着てるものが全身魔道具だからな。

 ゴスロリ服もかなりの防御力がありそうだし、何かしら他の効果もあるのかもしれない。

 これだけのものを買えるということは、冒険者としてもそれなりの実績があるということだ。

 それも考えて雹菜はこの人に依頼したんだろうしな。

 雹菜はそんな黒田さんに言う。


「じゃあ、お願いできますか? ただ、話しかけてすぐ逃げられたら、その時は流石に捕まえることになるだろうから……」


「俺たちは隠れて待機か」


「そういうことね」


「分かりました。早速行ってみますが、いいですか?」


「お願い」


 そして、黒田さんが立ち上がり、ゴブリンに近づく。

 ゴブリンはすぐに黒田さんに気づいたようで、凝視していた。

 すぐに逃げる、という感じではない。

 観察しているな……。


「やっぱり、普通のゴブリンとは違うな。迷宮の奴はすぐに襲いかかってくるし、今までたまに見つかってた奴は即座に逃げてたし」


「交流、持てるかもしれないわね……」


 そして、話せそうな距離まで近づいてもなお、逃げないことを確認できた時点で、黒田さんが口を開いた。

 ただ、そこから発せられた音声は、日本語ではなかった。


『……こんにちは』


 それなのに、俺の耳には、はっきりと意味が分かって聞こえた。

 雹菜の顔を見ると……。


「……雑音にしか聞こえないわ。あれがゴブリン語なのね。意味分かる?」


 と聞いてきたので、俺は言う。


「俺にはちゃんと意味が分かる……」


「えっ、じゃあやっぱり……称号の効果かしら」


「たぶんな……」


 この会話は黒田さんには聞こえないので出来ていることだ。

 そういうのを確認するためにも、あえて俺たちは隠れる、ということにしたのだろうな。

 

「じゃあ話そうと思えば話せる?」


「それは……無理そうなんだよな。意味が分かるだけで」


「……微妙? いえ……まぁ今はとりあえず話を聞きましょう」

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