第288話 別れ

 それから、俺たちは魔物を倒しながら迷宮を進んでいったが、やはりあまり強い魔物が出現することもなく、またボス部屋も特にないまま、三層へと続く階段の前まですんなりと辿り着いてしまった…


「……じゃあ、ここまでだな」


 階段の前で振り返って俺がそう言うと、ミリアとエリザも足を止めて頷く。


「あぁ、寂しくなるな……とはいえ、今生の別れというわけではないのは良かった。異世界から来たというのにまた会えるというのは不思議な話だが」


「本当ならもう二度と会えなくてもおかしくないですもんね……。別の大陸に行くってだけでも二度と会えないものだと思うのは普通ですから」


「確かにな……。だけど次来る時も多分、この辺に出るだろうから、二人がどこか遠くに行ってしまってたら分からないぞ?」


 言いながら、でも確信はないことか、と思った。

 元々俺がこの世界に出現した場所と、帰る場所がそれほど離れていないようだから無意識にそう思っていたが、それこそ次に来るときは別の大陸に出てしまってもおかしくはない。

 その場合は……まぁ地理は覚えたからこの辺りを目指してくることはできるだろうけど、地球と同じ距離感ではいられないからな。

 再会にはそれなりの時間がかかる可能性もある。

 

「私たちはしばらくはこの辺りで活動してるだろうから、よっぽど長い時間が経たない限りは大丈夫だろう」


「まずはランクを上げてかないとならないですからね! 三つ星くらいになれたらいいんですけど……」


「流石にいきなりそれは高すぎる目標じゃないか?」


「ハジメさんの《陣》の使い方とかを研究すれば、もっと効率の良い魔術を使えるようになりそうですからね。そうすればもしかしたら……でも一月二月でどうにかできることじゃないのは間違い無いので、まずは六つ星くらいを目指しますよ」


「私もそれくらいがいいと思う。ま、二人でしばらく頑張るよ」


「そうか……俺も向こうでランク上げ頑張るかな……」


 いまだに俺は低級のままだからな。

 とりあえずはせめてD級には上がっておきたいところだ。

 この世界で学んだ魔術についての技法があれば、そこら辺までは普通に上がれると思う。

 筆記とかで失敗しない限りは、だけど。

 そっちは普通に勉強するしかないからな……。


「私たちもいつか、行けるものならそっちにも行ってみたいな」


「確かに!」


 二人がそう言ったので、俺は少し考えてから言う。


「まぁ、二人が望むなら、いつか連れてってもいいぞ。行き来は普通にできるっぽいし。ただ、今は一人しか連れてけないみたいだから……いずれ二人同時に連れて行けるようになったらがいいかもな。別に一人ずつでもいいんだけど」


 そもそも二人連れてけるようになるのかどうかもわからない。

 あくまで希望的観測だ。

 しかし二人は頷いて、


「その時を楽しみにしてるよ」


「私もです」


 そう言ったのだった。

 それから、


「じゃあ、そろそろ行くよ」


 と俺が言うと二人は頷いて、


「じゃあ、またな」


「早めに顔を見せてくださいね」


 そう言って手を振る。

 俺はそれを見てから、三層へ向かう階段へと降りていく。

 この世界では色々あったが、どれも興味深い体験だった。

 特に、魔術に関する技法は俺にとってかなりの強化になったのではないだろうか。

 あれは間違いなく地球では学べない技術だったから……。

 地球で誰かに教えれば、使えるものなのだろうか?

 基本的に魔力を操れれば誰でも可能なものだから、それさえ出来れば身につけられるのだろうが……。

 まぁ、雹菜あたりにやってみてもらうかな。

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