第287話 新迷宮

「……こんなところに迷宮があったとは。ここ、後で報告しても構わないのか?」


 エリザが周囲を見回しながらそう言った。


「別に構わないよ。というか、放置してたらそれこそ暴走スタンピードの危険があるだろ? それなのに誰にも黙っとけなんて流石に言えないって」


 俺はそう答える。


「でも、ファンベルグから一日もかからず到達できる場所なのに、今まで誰も存在に気づかなかったのは不思議ですね……」


 ミリアがそう言ったので、俺はそれに対して《ステータスプレート》の表記から何となく推測出来ることを言うことにした。


「それなんだが、多分、ここが出来たのは最近のことだろうからな。半年も経ってないんじゃないか?」


「え? なんで分かるんですか?」


「俺には《ステータスプレート》っていう特殊な魔導具があることは言っただろ?」


「はい」


「それには様々な情報が記載してあるんだが、この迷宮……《落ち窪んだ星の城》についての情報もある程度見られるんだよな」


 以前はそんなものなかったように思う。

 いや、俺が気づいていなかっただけ、という可能性も勿論あるが。

 《ステータスプレート》に載っている情報は膨大で、しかも定期的にアップデートされるというか、気づくと新しい機能が追加されていたり、反対になくなっていたりすることがある。

 だから定期的な機能チェックは欠かせない。

 まぁ、基本的な事項についてはほぼ変わっていないのだが……俺の場合、《オリジン》であるからか、事情が異なるのだ。

 わかりやすいところが《世界》欄だな。

 俺の住む《地球アース》と、おそらくはこの世界を指すのだろう《マグスガルド》という《世界》しか記載されていないが、今後他の世界も追加される可能性もある。

 加えて世界欄の近くには迷宮欄というのがあり、それを見ると今まで潜った迷宮と、その他に聞いたことのない迷宮がいくつか記載されていた。

 それを詳しく見ると、どうも俺が現在いる場所から一定距離の迷宮が表示されているらしいことがわかった。

 さらに調べていくと、迷宮自体の情報も見られることも分かった。

 存在する場所の地図上の概ねの位置や、いつ頃に発生した迷宮なのか、また転移層が何層にあり、どの世界に接続しているのか、接続する時間帯までのカウントダウンまで記載してある。

 ただ、どの世界に接続しているのか、については《至地球》の文字しか確認できてはいないが。

 他の迷宮にも転移層があるようなのだが、どこに接続してるかは《至????》という感じで、読むことが出来ないようになっているのだ。

 実際に行って確認しない限りは表示されないということだろうか。

 微妙に不親切だな……まぁ何も手がかりがないよりはずっといいのだが。


「情報って……」


「色々あるけど、ここがいつ出来たのかも大体書いてあるんだ。魔暦3823年って書いてあるから、まぁ、今年で、どれだけ前でも半年は経ってないことになるだろ?」


「そうですね……年だけ?」


「そういうことだ。便利なんだか不便なんだか微妙だよな……」


「いえいえそんなことは……」


 ミリアに続けてエリザも言う。


暴走スタンピードは少なくとも、前回のそれより十年以上放置されない限りは起こらないとされているからな。それなら安心できる……まぁ、例外はあるが」


「例外って言うと?」


「大きな迷宮や浅層から強力な魔物が出現するような魔力の濃い迷宮だと、もっと短いスパンで起こりやすいらしい。だがここはそんな心配はないだろう。さっきから出てくるのはゴブリンやスライムばかり……典型的な、歴史の浅い迷宮だな」


「そうか……なら、潜るのもそんなに難しくはないかな。二人には帰りは二人だけで戻ってもらわないとならないしさ」


「大丈夫だろう。その、転移層も三層だと言うことだし、私たちは二層まで見送りに来ただけだしな。流石にそこでやられるほど弱くはないつもりだ。ここのところ、ハジメと一緒に依頼をこなして、だいぶ鍛えられたようにも思うし」


「それは確かにありますね。補助魔術をかけられた状態で見える世界に、普段も近づこうと努力してたらなんだか実力がついてきた気がします」


「なら良かった……じゃあこのまま進むぞ。ただ魔物が弱くても油断はしないようにしよう」


「ああ」


「ええ」

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