第310話 星宮の家

「家で聞いたなぁって……そんな気軽に聞けることか? って、そうか、樹の家って……」


 慎がそうだった、と思い出したような口調で言う。

 そうだ、樹の実家は普通の家ではない。


「まぁ、星宮の実家だからね。迷宮関係に関しては色々な情報が得られるんだよ」


「でも、樹って実家との関係があんまり良くなかったんじゃなかったか?」


 俺が尋ねると、樹は言う。


「それはそうなんだけど、前よりは良くなってるんだ、実は。というか……僕がこの《無色の団》にほぼ家出同然で転がり込んだのが功を奏してね。なんだかんだ言って、僕が実家を完全に捨てる覚悟まで持ってるとは思っていなかったみたいだよ。これは僕も意外だったんだけど」


「それで、向こうの態度が軟化した?」


「そういうことさ。正直、星宮の家を継げるのは僕しかいないからね……妹はさっさと家を見限ってしまってるから、星宮の家からは一切連絡つけられないしね。僕もそうするってなんで少しも考えなかったのか不思議だったんだけど、星宮という家は 莫大な財力と権力があるから、それを黙っていれば手に入れられる地位を捨てるはずがないって本気で思ってたみたいで……。笑っちゃうよね」


「いやぁ……俺だったら素直に受け取っちゃうけどなぁ」


「創のそういう正直なところ好きだよ。でも、家とか家族とかがあまりにも大きいと、逆に捨てたくなるものだよ」


 これには雹菜が頷いて、


「その気持ち、よく分かるわ……」


 としみじみ言っていた。

 彼女は姉が巨大な存在過ぎるからなぁ。

 元いたギルドだって、今では日本で五本の指に入るギルドになってしまってるし。

 

「お仲間がいて何より……ってわけで、実家はもう僕に何か強制したりするのは難しいから、むしろ懐柔策的に優しくなってるんだよね。久々に普通の家族みたいな感じになってて、新鮮ですらある。両親も改めてそう振る舞ってみると、意外と居心地が良いことに気づいたみたいで、本当に関係は良くなったよ」


「……思った以上に仲良くなってるんだな。って、それじゃあこのギルド抜けたりとか考えてる?」


「いや、それについては全然。両親も、むしろ辞めなくて良いってさ。何せ、今最も勢いのあるギルドだからね、ここは」


「あぁ、そういう意味でも良かったのか……だから色んな情報を?」


「うん、協力的に流してくれてる……でも、僕の方から向こうには流してないよ? だからみんなも安心してね」


「それが聞けて良かったわ……」


 と、雹菜が少しホッとしていた。

 それから、


「で、北海道魔境調査についてだけど、どのくらい聞いてるの?」


「概ね、今言っていたような話だね。第三次については広く人員を募集する予定だとも聞いてる。国内の冒険者のおよそ十分の一程度の人員は投入するつもりらしいよ。旗振り役も、《黒鷹》以外に冒険者省に冒険者協会も一緒にやるらしいから、本当に大規模な調査になるだろうって。星宮はそこに食い込みたいみたいでさ。といっても冒険者から搾取しようってより、物資やら何やらの用意を率先して行って、魔境解放後の北海道利権を手にしたいみたいな事だったから、そこまであくどくはないかなって思うんだけど」


「……いえ、それなりに悪どい気はするわよ? でも……そうね。今の北海道を開拓するには多くの人の協力が必要だし、星宮財閥が色々まとめてくれるなら、むしろありがたい、か。魔境調査に前向きな企業なんてそうそうないものね。まぁ解放された後ならうじゃうじゃ湧いて出るでしょうけど、そうなる前から支援してくれるようなところはまずないわ」


「でしょう? ま、何かあったら僕の方から文句言うし……」


「御曹司がいるとありがたいわね……」

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