第311話 ギルド黒鷹
「……ここが《黒鷹》のギルド、新宿本部か……」
新宿駅前の巨大なビルの前に立って、俺は思わずそう呟いた。
その理由は簡単で……。
「見たことは会ったと思うけど、そんなに驚いた? 確かに大きいけどね……うちと比べれば遙かに」
そう、我がギルド《無色の団》は丸の内にあるとはいえ、せいぜいがビルのワンフロアを間借りしているに過ぎない中小ギルドだ。
しかし、《黒鷹》は文字通り、規模が違う。
とはいえ、少し前までも大規模ギルドとして名の知られた存在ではあったが、今や日本でも五本の指に入る五大ギルドの一つなのだから、さもありなんという感じだが。
「俺も昔はここに入りてぇって思ってたなぁ……」
しみじみとした口調でそう言ったのは、カズである。
振り返って、
「そうなのか?」
と訪ねると、カズは答えた。
「あぁ、まぁな」
「またどうして。いや、有名ギルドだから別におかしかないけど」
ただ、あえて《黒鷹》を選ぶ理由が分からなかった。
今はともかく、以前なら他に大きく、治安の良さげな優良ギルドがいくつも挙げられる。
それなのに、と。
これにカズではなく、巧が答えた。
「こいつは今はこうしてマシになってるが、高校時代はグレてたからな……。冒険者学校の不良が憧れるギルドなんざ、ここくらいなものだ」
「あぁ、そういえば……」
元々、俺と彼らの出会いはあまり良くないものだった。
はっきりといえば、チンピラだと思っていて、実際そのような振る舞いをしていたのだ。
しかし、ある程度コミュニケーションを取るとそういう態度は虚勢、もしくは虫の居所が悪すぎた故のことだったと明らかにはなったが。
それでも褒められたものではなく、今では反省しているようで、あの頃のようなことはもはや二人ともやらない。
そしてそんな二人がかつて憧れていた、と言われると納得がいった。
「やっぱり巧も憧れてたのか?」
「俺は……まぁ俺もそれなりに荒れてたけどこいつほどじゃなかったからな。友人のよしみで、付き合ってただけだ。こいつが目指すならと思って付き合ったが……残念ながら二人とも落ちたよ」
「あぁ、それは残念だったな……でも、なんで落ちたんだ? 能力不足か?」
「それもあったんだろうが、面接で言われてな」
「何を?」
「お前たちはうちに来るほどの問題児じゃない、かといって他の奴らの面倒を見られるほどの余裕もなさそうだ。もし本当にうちに入りたいなら、もっと力をつけてこいってさ」
「それは……どういう」
不思議に思った俺に、雹菜が説明した。
「《黒鷹》は特殊な存在だからね。入れる冒険者は、賀東さんの方針で、どうしようもない不良冒険者か、それを矯正するに足る気合いの入ったやつだけにしてる、って話よ」
「そういえばそんなこと言ってたな……」
「私も、本人に聞いたから間違いないわね。カズと巧は……まぁ荒れてたって言っても犯罪を犯すほどでもなかったんでしょうし、かといって今はともかく当時は器もそれほど感じられなかったってことでしょ」
「納得したよ……でも今ならいけるんじゃないか?」
当時は知らないが、出会ったときに比べて実力もついているし、面倒見も良くなった。聞くところによると、他のギルドの新人などが困っているところをみると、率先してアドバイスしたりもしているようだ。
先輩冒険者の助言というのは非常に大切で、わざわざ自分のギルド外の人間にする人も少ないから、かなりありがたられているようだ。
迷惑がられてなくて良かったなと思う。
なんせ二人とも、顔は怖いはガタイはいいわで、初対面ならびびられるのが常だからな……。
そんな二人が、言う。
まずカズが、
「いや、俺はもう《無色の団》に骨を埋めるって決めてんだよ。だからいいのさ」
続けて巧も、
「同感だな……。それに色々知ってしまった今、そう簡単に移るわけにはいかないだろう? ……いや、移るつもりはそもそもないからな?」
少し鋭い目を向ける雹菜に言い訳するように言ったのだった。
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