第122話 十層
五層を超えてからも、攻略の速度は大して変わらなかった。
むしろ、早まったくらいかもしれない。
意外にこの迷宮は最初の方に出てきたカッパが硬くて手強く、その後に出現してきた魔物は梓さんが簡単に片付けてしまっていた。
なんか燃えやすいようなのが多かったんだよな。
一旦木綿とか、唐傘小僧とか。
もちろん、梓さんはカッパも一撃で倒していたのだが、こめている霊力量が別物らしい。
「……カッパ素材の防具への活用に期待が持てるな」
俺がそうつぶやくと、雹菜も頷く。
「単純にあのまま使ってもいいけど、砕いたりエンチャントしたりする方向で開発してもらってもいいかもね。新素材だから値が張りそうだけど、その分リターンもありそう」
「特許とか取れる?」
「可能性はあるわ。と言っても、私たちにそこまでの技術力はないから、共同開発って形にしてもらうとかになると思うけどね」
「そんないいとこ取りみたいなこと可能なのか?」
「必ずしもいいとこ取りってわけでもないわよ? そう言えるだけの協力はしないとならないから。魔力を提供したり、強度を試すためにスキルを使ったりとかね。あとそもそもの素材の収集はこっちでしないとならないし。他の迷宮ならともかく、ここに来られる人は限られているものね」
「なるほどな……でもそうなると、梓さんたちも一枚噛みたいんじゃ?」
「そうじゃの。いい商売になりそうじゃし……ただわしらには迷宮関係の鍛冶屋や素材屋の伝手はないでのう。じゃからこそ、迷宮素材の扱いは適当じゃったんじゃが……」
「それなら今度、東京に出てきたらうちのギルドを訪ねてくれればいいわよ。梓さんなら歓迎するし」
「おっ、ギルドに入れてくれるのか?」
「……入りたいの? 別に構わないけど……里の長の仕事は?」
「わしがやってることなど長老会のメンツが集まれば全部なんとかなるからの。今回こうして出張ってるのは、例外じゃ。他の奴らでは、どうあってもここまで来れん故な」
「梓さん、本当に余裕そうだから、本当に無理なのかなって気がしてくるわ……」
「これでもそれなりに消耗してはいるんじゃがなぁ……」
「そうは見えないわ……ま、話を戻すけど、うちのギルドに入るっていうのなら、来た時にでも正式に話しましょう。こっちでの生活もあるでしょうから、臨時に、とか顧問、とかそんな感じでもいいわよ。うちにも一人、そんな立場の人いるし」
「おぉ、ちょうどいい立場があったもんじゃな。では、一通り片付いたら訪ねることにしよう……ふむ、お? そんなことを言ってる間についてしもうたな」
梓さんがそう言って立ち止まる。
俺たちは、梓さんを先頭にして迷宮を進み、みんなそれぞれで協力しつつ魔物を倒して進んでいたわけだが、散歩の如く、大きな扉の前にたどり着いた。
ここがなんなのかは、もうはっきりしている。
「十層のボス部屋か……さっき五層で倒したばかりだってのに」
そう言ったのは慎だ。
「まぁ、梓さんの露払いのお陰で思った以上に早くついたな。やっぱりボスも簡単に倒せるんじゃないか?」
俺がそう言うと、これに梓さんが、
「いや、無理そうじゃぞ。ほれ」
そう言って、扉に手を近づける。
すると、バチッ、と電流のようなものが走って、彼女の手を退けた。
「……それは」
「結界のようなものじゃろうな。どうも、霊力に反応しておる。ただ弾くのではなく、今ので半分持ってかれたぞ。もう一度触れれば、わしは動けなくなる。ただでさえ霊力が削られておるからのう……死にはせんじゃろうが、ここで倒れて動けなくなるのはごめん被る。すまんが、やはり当初の予定通り、主らだけで戦ってもらうことになりそうじゃ」
「私たちも同じように弾かれたりしないのかな……あっ、大丈夫そう」
美佳がそう言いながら扉に触れると、梓さんの時とは異なり、普通に扉に触れられた。
そして、ごごごごご、と音を立てて開いていく。
「美佳、お前危ないだろうが……」
慎が注意するが、美佳は、
「この中じゃ私が一番戦力として弱いんだし、倒れてもなんとかなるだろうと思ったのよ。ごめんごめん」
などと言って笑う。
しかしその言葉に雹菜が、
「美佳、そういうのは駄目よ。そもそも、炎術が最もよく効く相手がボスだったら、私がむしろ戦力的に使えなくなるかもしれないじゃない。ギルドメンバーは、みんな大事なの」
そう言った。
瞳は真剣で、しかし少し悲しそうだった。
美佳が自分を卑下している、と感じたからだろう。
雹菜のそんな様子を感じたのか、美佳は、
「ご、ごめん……ほら、私、最近あんまり強くなれてないんじゃないかと、不安で」
「創や慎君と比べるからそう思うんでしょうけど、他のギルドでだったら美佳は正直天才と呼ばれるくらいの速度で強くなってるんだけどね……まぁ、気持ちは分かるわ。今度、その辺について感覚を変えられる方法、考えてみるから、自分を大切にして」
「うん……雹菜、ありがと」
「いいのよ」
「……友情を確かめたところで、中に入ろうぜ」
慎が割って入ってそう言ったのは、自分の好きな人が何か雹菜に心酔しそうな雰囲気を感じたかもしれない。
この言葉に二人はハッとして、
「そ、そうね……じゃあ、行きましょう。最初に私が入るわ。いきなり攻撃されても、反応できると思うから」
そして、雹菜を先頭に十分な心構えをして、俺たちは十層ボス部屋へと入る……。
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