第121話 撃破
ただ、決して簡単にとは行きそうもなかったとはいえ、二人と鬼女との戦いは終始、慎と美佳の優勢で進んでいった。
鬼女の方は、迷宮の魔物とはいえ、その体力には限界があるらしい。
「……鬼女の動きが精彩を欠くようになってきたな」
俺がそう呟くと、雹菜も頷いて言う。
「慎君が地道に傷をつけていっているのが効いてるみたいね。迷宮の魔物は、無尽蔵とも言える体力があることも多いけど……それでもダメージは蓄積されていくわ。その結果として……」
「ふむ、もうそろそろ決着じゃな」
梓さんも頷いたところで、慎が鬼女を弾き飛ばし、屋敷の壁に叩きつける。
そこを狙って、美佳が《炎術》による火炎を放ち、屋敷ごと燃やした。
「……あれって燃やしても大丈夫なのか?」
つい尋ねたくなった俺だった。
迷宮のボス部屋だから、あの中に何かアイテムがあったり、もしくは次の階層への入り口とかあったりするんじゃないか、という不安からだ。
これに梓さんは、
「前に見た時は特に何もなかったからのう。まぁ、包丁とか鍋とかはあったが……特別な品ではなかった。次の階層への出口は、あの屋敷の後ろの方に竹藪を貫く小道があるから、そちらになる。じゃからまぁ、燃やしても問題なかろ」
そう言ったのだった。
断末魔の悲鳴を上げる鬼女は、そして、屋敷ごと完全に灰になったのだった。
*****
「どうだった!?」
鬼女を倒して直後、慎が笑顔で駆け寄ってくる。
「ちょっと、慎! あんた素材の回収してよ!」
美佳が後ろからそんなことを叫んで、色々と拾っている。
鬼女はそれなりにドロップ品が出たらしい。
「あ、悪い悪い……」
「まぁ、もう大体拾ったからいいけどね。宝箱も出てるけど、あれも私のにするから」
「おっ、お前……」
「何よ。いいじゃない……初めて二人でボス倒した記念に残しておきたいし」
「え、あ、あぁ……」
そんな会話を聞いていると、俺はふと思うところあって、雹菜に、
「……なぁ、あいつら、もしかして付き合ってる?」
と尋ねてみた。
雹菜は顎をさすりながら、
「……特に何も聞いてないけど……ちょっと前から距離感近いなとか思ってたのよね。もしかしたらそうかも」
そう答える。
さらに梓さんが、
「ふむ、人間が発情した時、特有の匂いがするのう……これは間違いないぞ」
と身も蓋もないことを言う。
「発情って。もっとこう……恋の香りとか、そういう詩的な表現はないのか」
「そう言われてものう……まぁ、それが要望とあらば、次からはそう言うことにしておこう。しかし、創よ」
「なんだよ?」
「お前は構わんのか? あの二人がくっついても」
「……あー……幼馴染だから、気まずいんじゃないかって?」
それくらいの関係性の話は、梓さんにもしてある。
「それもあるが、長く付き合いがあるなら、お主も、こう、美佳を憎からず思ってたりなどは……」
「ないない。俺はそういうの一切なかったな、美佳には」
これに意外そうに、
「えっ、そうなの?」
と尋ねてきたのは雹菜だった。
「そうだよ。美佳にしろ、慎にしろ、俺にとっては……なんというか、どっか気のいい兄ちゃん姉ちゃんみたいな感覚があるからな」
「兄ちゃん姉ちゃんって、同い年でしょうに」
「会った当時は、二人とも俺よりかなりでっかくてな。それに、俺は引っ込み思案で……そんな俺に声をかけて外に引っ張り出してくれたのが、あの二人なんだよ」
「そんな歴史が……」
「そこまで大層なもんじゃないけど。ま、そういうことだから、恋をするとか、そういう対象じゃないんだよな……」
「慎君は? すごいモテるんじゃなかったっけ?」
「あいつはモテすぎて、大抵の女に仮面被って生活してたから……恋愛どうこうって感じじゃなかったからなぁ……まぁ、ちょろちょろ付き合ってはいたけど、長続きしてるの見た事ない。考えてみればあれって、本当は美佳を求めてたから、かもしれないな」
誰と付き合っても、微妙そうな感じだったような覚えがある。
美佳はそれを普通に聞いてたし、茶化したり祝福したりしていたが……それも微妙な感覚に拍車をかけたりしてたのかもしれないな。
まぁ、あいつらのその辺のことは聞いて見ないとわからないが……。
「何にせよ、めでたいわね。はっきりしたら、お赤飯でも炊きましょう」
雹菜がそう言ったので、俺は、
「……それって恥ずかしくないか……?」
「じゃあ特注ケーキくらいにしておきましょうか」
「おっ、ケーキを注文するなら、うちの里の者が東京で洋菓子店を出しとるから、そこに頼んでくれるとありがたいのじゃが」
と梓さんが言ったので俺は呆れて、
「……妖人、手広すぎだろ……」
そう突っ込まざるを得なかったのだった。
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