第260話 模倣

「たったあれだけの魔術を発動するのに、三十分も……?」


 それは驚きというか、現実的ではないなと思ってしまう。

 俺が使った場合は結構な火柱が上がった《小火》だったが、ミリアの場合は本当にその名の通り、小さな火が出現しただけに過ぎなかった。

 あの程度のものに三十分もかかるようなら……まぁ、焚き火をするための種火を生み出す、とかなら別にいいかもしれないが、戦闘中に使ったりすることは全くできないことになってしまう。


「もちろん、それでは魔術師が魔物と戦えるわけもありませんので、普通の魔術師は呪文を唱えたり、印を結んだりするのですけどね。たとえば……」


 ミリアはそう言って、集中する。

 魔力を練り込み、そして唱えた。


「……『火精よ、我が呼びかけに答え、その力の一部を貸し給え。今ここに、小さき火の加護を現さん……《小火》!』……」


 すると、ミリアの魔力が呪文と共に、自然に先ほど地面に描かれた《小火》の《陣》の形に組み上げられた。

 さらに、ミリアは手の形をいくつも変えて動かしていた。

 なんというか、特撮ヒーローのポーズのように見えてしまう動きだが、それよりは若干小さめだったかな。

 全てではないが、なんとなく見る限りは《陣》の形をなぞる様な動きだったので、あの動きにもしっかりと意味があるのだろう。

 そして、直後、ミリアの目の前に、ポッ、と火が灯った。

 先ほど地面から少し浮いたところに現れた火と大きさもほとんど変わらないが、こちらの方が若干安定しているように感じられる。

 《陣》が魔力で描かれているからかな?


「魔術師はこんな風に、魔術を発動させます。なんとなく分かりましたか?」


 そう言って、ミリアは魔力の供給をやめた。

 すると火もふっと消えていく。

 俺はミリアに言う。


「あぁ、分かったよ。確かにかなり《陣》を描くのに三十分もかかってないな。二十秒くらい?」


「そんなものですかね。今はあんまり急いでなかったので、十秒くらいでも多分出来るとは思いますが……やっぱり火系統は苦手で。それ以上短くは出来ないので、戦闘には使えないですね」


「なるほどな……ところで、俺もちょっと真似してやってみてもいいか?」


「えっ? そうですね……呪文を唱えて、私の先ほどの動きを真似してもらえれば……。でもそんなにすぐ出来るものではないですよ?」


「まぁそうだとは思うけど……とりあえず、三十分かかるらしい方からやってみようかな。そっちは魔力で陣を描けばいいだけなんだろ?」


「そうですね。でも正確に頭の中に陣の形を思い描きながら描かないとならないので、難しいですよ? 三十分は、慣れてる私ならってことで……」


「まじか……まぁ、何事も体験だし、全然無理そうなら今度は呪文とかも唱えてやってみるよ」


「うーん、まぁいいでしょう。あっ、でももし万が一うまく行ってしまった時が怖いので、向こうに向けて陣は描くようにしてくださいね。私たちに向けてだと、焼き尽くされちゃいますからね……あはは」


「笑い事にならないよな……いや、もちろんわかってる。最初からそのつもりだよ。じゃあ……」


 とりあえず、基本的には魔力を自分の前に描けばそれでいいっぽかったな。

 魔力を体外に出し、ささっと《小火》の陣を描いてみる。

 起動魔力、というのをどう注ぐのかがちょっと迷ったが、陣にほんの少しだけ魔力を軽く入れてみると、なんというか、袋に物を詰めるような感覚がした。

 だから、もう入り切らない、という一杯のところまで魔力を注いでみた。

 すると……。


 ーーゴォォォオォ!!


 と、陣から火炎放射器にのような炎が放たれる。

 

「え、う、嘘でしょ!?」


「ハジメ!」


 二人が慌てたのを見て、俺も先ほど同様にまずいと思い、魔力の供給を止めて、陣を消した。


「……なんか、出来ちゃったな……」


 俺がそう言うと、やはり、というべきか、ミリアとエリザの二人はなんとも言えない顔をしていた。

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