第261話 無詠唱が難しい理由

「い、一体どうやって発動させたんですか!? 私でも三十分かかるのに!!」


 食ってかからんばかりの様子でそう言ってくるミリアに、俺は頭をポリポリかきながら言う。


「どうやってって、言われた通りに……陣を魔力で描いて、そこに起動魔力をいっぱいに入れたら出来たっていうか……」


「陣を……無詠唱で、ですか。普通できることではないんですが……」


 ミリアの唖然とした表情に、なかなか大変なことをやってしまったらしい、と理解する。

 しかし不思議だった。


「そんなに難しいか? あんなの絵を描くのと一緒だろ。まぁ、別に俺はそんなに絵を描くの上手い方じゃないが、陣は規則的な図形だしな……」


 詳細な猫の絵を描け、とか言われるよりも、次の図を作図しなさい、と言われた方が俺は楽にかけるタイプだ。

 だが、考えてみると、器用が上がってから真面目に絵を描いたことなんてなかったな。

 今ならうまく描けるのかもしれないとふと思った。

 まぁそれは今はいいか。

 俺の言葉に、ミリアは少し考えてから、困惑した表情で言う。


「絵を描くのと同じ……え? でも、魔力の形なんて見えないんですよ。大雑把な気配が感じられるだけで……まるで目隠しして絵を描いてるようなもので、だからこそ頭の中でしっかりイメージして、その通りに陣を描く必要が……」


 それを聞いて、俺は、あぁ、と納得した。

 そういえばそうだったなと。

 俺は魔力を普通に視認出来るので、普通のお絵描きと同じなのだが、見えない人間がやるならまさに福笑いみたいなことをさせられてるに近いのか。

 そうだとするなら、そう簡単に描ける物ではないというのも納得がいく。

 ではなぜ詠唱すると出来る様になるのか。

 呪文を唱えると、補正が入るのかな?

 適当な丸を描いても、コンピューターがこれは丸ですね、と丸にしてくれるみたいな……。

 なんで呪文にそんな効果があるのかは謎だが。

 身振りの方はそこからするとわかりやすいかもな。

 陣の図形通り、もしくはそれに近い動きをすることで、魔力も無意識にそこに流れるみたいな感じになってると考えれば……。

 まぁ間違ってるかもしれないが、遠からずと言ったところではないのだろうか?

 ただし呪文は謎だ。

 俺はそんなことをミリアに言ってみる。

 するとミリアは、


「そうですか……魔力が見えるなら……簡単なのかな?」


「なんか試してみるか。ミリアが魔力で陣を描いてみてくれよ。で、俺が陣の形を指示してみるからさ」


「あぁ、なるほど。そういうやり方なら……ではやってみましょう!」


 ミリアが意外に乗り気でそんなことを言った。

 そして実際にやってみると……。


「……こりゃ、ダメだな」


「ダメですか……?」


 泣きそうな表情のミリアがそこにいた。

 ミリアに魔力を出してもらって、陣を描いてもらったのだが、色々と問題が発生した。

 そしてそれらを見て、なるほど、普通なら無詠唱が難しいわけだと納得もあった。

 まず何がダメかと言うと……。


「そもそも魔力の操作がヘロヘロすぎるな。なんで真っ直ぐな線すら引けないんだよ」


「そう言われましても……真っ直ぐ出してるつもりなんですけどね……」


 まずそこだ。

 ミリアは魔力自体の扱いが、なんというか……まぁはっきり言ってしまおう。

 ド下手だった。

 言った通り直線すら怪しい。

 そんな状態で円など描けるわけもない。

 さらに……。


「魔力の量も多かったり少なかったり……安定してない。一定量で出し続ける必要があるんだが……これも出来てない」


「で、でも、ほら、ちゃんと発動はしたじゃないですか!」


 実際、一応そんなヘロヘロ魔力で描いた陣でも、なぜかちゃんと発動した。

 確かに、死ぬほど甘くみるなら陣の形をしていると言えなくもない、のか?

 みたいな形にはなっていたから、神だか魔力の法だかわからないが、その辺が大目に見てくれて発動を許可してくれたのだろう。

 というか、あれだな。

 この感じだと、三十分かけて描いて発動させるらしいものも、同じようにヘロヘロ陣なんだろうな……。

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