第262話 練習場所

「ともかく、どうして普通は無詠唱が出来ないのか、その理由が分かったよ。そして俺なら、かなり簡単に出来そうなことも。だからガンガン教えてくれ!」


 と俺が言うと、ミリアとエリザが顔を見合わせた。


「どうしたんだ?」


 俺が二人に尋ねると、まずエリザが言った。


「いや……ハジメの言ってることが本当なら、魔術をこれ以上教えても大丈夫なのかどうか、ちょっと不安になってしまってな……」


「私も同感です。《小火》ですらあれなのに、初級魔術、中級魔術とガンガン覚えて使ったら、かなり危険なんじゃ……」


 確かにそう言われると彼女らの危惧も分からないでもない。

 威力の調整はもうちょい出来るといいのだが。

 あと、とりあえず使ってみた時に、周囲に被害が及ばないような環境が欲しいかもしれない。

 ここは街の外で、周りには森の木々くらいしかないが、あまり破壊力のある魔術を使うと自然破壊になってしまうだろう。

 この世界で自然破壊がどれくらい咎められるかは謎だが……一応、ここもまた、あの伯爵の領地であるのは間違いないだろう。

 だとすれば、むやみやたらに破壊するのは褒められた行為ではないだろうしな……。

 

「……でも魔術はちゃんと学びたいぞ。せめて、もう少し、周囲に危険が及ばないようなところがあれば……」


 俺の言葉にエリザが、


「まぁ、そうなるとやっぱり迷宮になるな。だが《緑鬼の土巣》はまだ暴走から日が経ってないから立ち入り禁止だ。他は……」


 続けたのはミリアだった。


「少し離れたところでいいなら、《忘れられた傀儡墓地》とかいいんじゃないですかね? 馬車で半日くらいで行けますけど。往復で二日と見て、探索に二日くらいの計四日くらい……だよね?」


 最後の言葉はエリザに向けられたものだ。

 ミリアはもちろんこの世界の常識については詳しいが、冒険者としては俺と同じ新米である。

 一歩先を進む先達たるエリザの方が、その辺りの情報についてはよく知ってるだろうと言うわけだ。

 エリザもその意図を理解して言う。


「あぁ、確かにそんなところだな。一緒に迷宮に潜ると言ってたのに、なかなか行けてないし、一緒に行くとしようか。そういえばハジメの武具もそろそろ出来てるんじゃないか? 試し切りに……というのもあれだが、そういうのに向いた魔物もあそこなら出るしな。ちょうどいいかもしれん」


「そうなのか? ちなみにどんな魔物が?」


「《傀儡》の名前がつくだけあって、そういう系統の魔物が多いな。弱いものだと、いわゆる《人形ドール系》の魔物が多い。と言っても、この世には強い《人形系》の魔物もいるからそこは勘違いしてはならんぞ」


「それは講習でも言われてるし、大丈夫だよ」


 なんなら地球でも色々と勉強してるところだ。

 ゴブリンという種は弱いものが多いけれども、ゴブリン暗黒騎士みたいな化け物もいるという意味だな。

 

「……とはいえ《忘れられた傀儡墓地》にはそういった強力な《人形系》は出ないな。そこそこ強いものとしてはやはり《魔導人形ゴーレム系》だろう。これについては戦士系なら身体強化系の技術を持たなければ、まず剣も通らないし戦いようがない。魔術師なら、魔術でどうにかできるが、これはハジメのちょうどいい的になるだろうさ。とは言っても、私は石魔導人形ストーンゴーレムまでしか倒せないからそれ以上にちょっかいをかけるのは遠慮してほしいところだが……」


 何かを探るように俺の方を見るエリザ。

 俺はそれに対して言う。


「流石にそういう無謀さとかは持ってないから安心してほしい」


「良かった! 冒険者なりたては何を言っても、前に突っ込んでいく馬鹿が必ずいるから……かといって指摘すると逆効果になったりして扱いが難しいんだ……」


「エリザ、苦労してるのね……」


 ミリアが慰めるようにそう言った。


「まぁ、流石に二人がそんなタイプではないだろうと九割方確信はしていたんだがな。ちょっとだけ、不安で」


「気持ちはわかるから、構わないよ……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る