第441話 魔氷人

「……普通の鍛冶とは違うって事は、当然、普通の鍛冶では生み出せないものが作れる……ってことよね?」


 雹菜がそう口にした。


「だろうな。そもそも、魔道具職人なんかは普通に今でも市井にいるけど、その性能は迷宮品の方が上のことが多いし、今の技術じゃ作れないものが多いって言うし。《鍛冶術》ならその辺のことも解決できそうな期待が持てそうじゃないか?」


 実際、総理の情報に寄れば、外国にいるドワーフが作る武具や魔道具の性能は、国内の魔道具職人が作るものと比較しても段違いの性能を有しているという。

 それが《鍛冶術》に基づくものだとしたら……。

 日本でも、それを普通に作れるようになれば、迷宮探索や、《転職の塔》の攻略、それに各地の魔境の攻略も一気に進められるかもしれない。

 これはかなり期待の持てそうな話だ。


「もし本当にそうなら、まさにって感じね……。ギルドビルに戻ったらすぐに試してみたいわ。いずれ職人も抱えたいとおもって、工房はビル内に作ってあるしね」


「一応、みんな武具の手入れに使っているけど、ほとんど宝の持ち腐れだしな。稼働するようになればこんなにいいことはない」


「では、ジャドさんの転職を終えたら、すぐに戻りますか?」


 静さんがそう尋ねるが、雹菜は首を横に振って、


「まだ、私と静には選択できる種族が一つ、残ってるでしょ? それも試さないとね。あと、最後に創の種族も……ちょっと怖いけど」


 そう言う。

 

「《魔氷人》と《魔眼人》ですか……響き的にあまり気が進みませんが、しかたないですね。いずれ試さねばならないでしょうし。創さんの方がもっと恐ろしいですし、それに比べればマシでしょうか」


「おい……反論できないが、俺が悪いわけじゃないぞ」


「まぁそれはそうですね。責任があるとしたら、こんな世界にしてくれた神様かなにか、なのでしょうが……うーん、一体どうしてこんな世界になっているのでしょうね? 根本的なことが最近、凄く気になっていますよ」


「それはみんなそうだろうが、そう簡単に分かることでもないしな。迷宮なんて出来る前だった、どうして世界が出来たのか、その始まりについては誰も確信持って言えなかったんだし」


「それを言われるとそうですが……あんまり考えすぎても仕方ないのかもしれませんね。さて、さっそくやりましょうか。まずは……どちらからにします?」


 静さんがそう言うと、雹菜が、


「じゃあ、私からやるわ。ギルドリーダーとしての責任があるからね。大丈夫だとは思うけれど、暴れ出したりしたら気絶させてでも止めてね……創がいるからそれくらいはなんとか出来るでしょ」」


 名前に魔、が入っているから、バーサーカーじみた行動をするような種族なのではないか、と危惧しているらしい。

 まぁありえない話でもないか。

 俺が頷くと、雹菜は、


「よろしく……じゃあ、ポチッとな」


 と《ステータスプレート》の該当部分を、割と気軽にタップする。

 あまり気負っても仕方のないことだろうしな。

 そして、次の瞬間、雹菜を小規模な氷の嵐、のようなものが包んだ。

 他の種族とどうもエフェクトが違うな。

 特集な種族だからか?

 分からないが……。

 そして、しばらくするとその氷嵐が静まり、変化した雹菜の姿が見えてくる。

 

「……なるほど、こうなるのか」


 俺がそう呟くと、目を瞑っていたらしい雹菜の目が開き、その瞳が赤いことが明らかになる。


「……どこか変わってるところ、ある?」


 雹菜が口を開いて、そう言ってきたのでバーサーカーになる危惧は杞憂だったと分かる。

 俺はそんな彼女に言った。


「……一目で分かるのは、角が生えてることだな」

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