第442話 感覚
「えっ、角!? ……本当だ……」
雹菜は驚いたようにそう叫び、それから自分の頭周りを触れて、納得したように言った。
彼女に生えている角は、頭の両側に、羊のような巻き角が二本であった。
どことなく可愛らしい印象だが、流石に現代において頭に角の生えている人間というのは見たことがなく、違和感もある。
似合っているか否かで言えば、似合ってはいるが……コスプレ感があるというか。
「その角には感覚とかあるのか?」
思わず俺がそう尋ねると、雹菜は確認するように角に触れながら、言う。
「……ある、わね。皮膚とあんまり変わらない感じ? 神経とか通っているのかしら……折れたら痛いのかな? だったら弱点が増えたみたいで嫌ね……。あっ、あと、ここから人の……体温とか気配が感じられるわ。角の機能なのかしら」
「……触角とか犬猫のヒゲみたいな感覚器官なのかもな?」
「便利と言えば便利ね……他に変わってるところある?」
そう尋ねた雹菜に、今度は静さんが言う。
「目が赤いですね。充血とかではなく、赤い瞳で。それと、白目部分が黒いです。邪悪って感じがしますよ」
「えっ……それも本当みたいね……髪も、真っ白……」
懐から手鏡を取り出して眺め、そう呟く雹菜。
元々は青みがかった髪色をしていたから、大きな変化だな。
「視界とかに違和感はないの?」
黒田さんが尋ねる。
雹菜これに首を横に振って答えた。
「ううん、特にないわね。普通に見える……あぁ、魔力はいつも以上によく見えるわ。なんというか、感知系に長けてる種族なのかしら?」
「へぇ……悪くないな。探知系は伸ばすの簡単じゃないし」
俺がそう言うと、雹菜は、
「でも目が……ちょっと怖すぎるような。みんなこの種族になれるのなら、いいんだけど、きっと少数派だと思うのよね。実際、この中でもなれるの、私だけだし」
「まぁそれはな……」
そんな話をしていると、ジャドが、
『ふむ、それにしても、その容姿は《魔族》のそれだな』
と言ってくる。
「《魔族》?」
首を傾げてそう尋ねる雹菜に、ジャドは言う。
『あぁ。そうだ。と言っても、《魔族》はゴブリンやドワーフ、エルフと言った単一の種族とは違って、色々なタイプのいる種族だったが。ただ、目が今のハクナのように黒く染まっていて、角があり、探知や術、また身体能力にも優れていたな』
「ゴブランにもいた種族って事?」
『……いや、記憶にある限り、迷宮から現れる種族の一つだ。ただ、他の迷宮に出現する種族と違って、かなり自由意志があり、迷宮から出てくることも多かった。知能も優れていて、意思疎通も可能だったようだが……仲良く出来る感じでもないようだったな。ゴブリンとは敵対関係にあったようだ』
「うーん……あんまり性質のいい種族ではないのかしら? 種族が変わることで精神に影響が出ないのは良かったわ……。いえ、多少は出てるかも? ちょっと攻撃的になっているような気がしないでもないし、エルフになったときは盆栽とか育てたいような気がしたし、ドワーフのときは何か作りたいような欲求もあったし……」
「えっ、そんな影響があるのか……?」
俺はまだ種族を変更してないのでその辺りの感覚が分からなかったのでそう言った。
雹菜は頷いて言う。
「ええ、ちょっとだけ、だけどね。抗いがたいみたいな感じではないわ。長い間、その種族で居続けたら、衝動に逆らうのも面倒になりそうな気はするけど」
「……大丈夫なのかそれ」
「どうかしら……。個人としては問題ないとは思うけど、集団になり始めると、まずいかもしれないわね……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます