第440話 ドワーフ
『……なるほど、ドワーフだな、確かに』
ジャドがしみじみとした声色でそう言った。
「見たことがあるのか……って、あるはずないか。でも、《記憶》があるんだな』
《記憶》とは、世界の影としてのそれ。
つまり、ジャドのコピー元になったゴブリンの記憶のことだ。
ジャドは頷いて、
『あぁ、その通りだ。ドワーフはゴブランにも居たようで……魔物としてではなく、しっかりと世界に居着いていた者達も少数ながらいたらしい。主に道具や武具の製作など、技術面に長けていたようだ』
「そこはイメージ通りだな……それにしても、見た目は……」
『何かおかしいのか?』
ジャドが首を傾げるが、考えてみればゴブリンから見れば、子供の人類も大人の人類も、一緒なのかもしれない。
俺たちから見たゴブリンだって顔立ちとかはそんなに大きな違いがあるとは感じられないからだ。
流石に、子供と大人は大きさというか、身長で分かるが、その程度だ。
大人も子供も、顔立ちについては……まぁ多少、シワが多いか少ないか、くらいの感じでしかない。
ゴブリンから見た人類もそんなところ、というわけだろう。
なので俺は説明する。
「おかしいっていうか、いきなり十年以上も若返った感じに見えるんだよな」
十年は雹菜で、二十年くらいは静さんだ。
細かく説明すると怒られそうなので大雑把な表現にした俺の繊細な気遣いよ。
しかし、若干厳しい目が静さんから俺に飛んでいる気がする。
気づかないふりをして、ジャドの言葉を待った。
『なるほどな……それでは、心配だろう。身を守ることが出来なくなった感じがするのだな』
ジャドが真っ当なことを言うが、俺の危惧は別にそう言うことでは……いや、細かく説明するとドツボにハマる気がする。
だからそう言うことにしておこうと思った。
「そうそう、そんな感じなんだよな……で、実際三人は腕力とかそういうの、どういう感じだ?」
俺が尋ねると、雹菜がまず答える。
「うーん、手足が短くなってしまったから、どうにも弱くなったような感じがしてしまうけど……でも手を強く握ると、今まで以上に力がみなぎる感じがあるわね。ちょっと握手してみる?」
彼女が手を差し出したので、手を繋ぐと、雹菜は握る手に力を込めた。
すると……。
「いてててッ!? なんだ、めっちゃ力強いな……いや、腕力の数値は前から雹菜は高いけど、今、あんまり力込めた感じじゃないよな?」
雹菜は高位冒険者だ。
したがって各種ステータスの数値はもともと高い。
しかし、それでも思い切りやらなければ、俺とてもはやさほど差を感じないくらいに最近はなりつつある。
それなのに、軽く握ってその感じなのだ。
雹菜は自分の手を握ったり閉じたりしながら答えた。
「やっぱり、かなり腕力上がってるみたい……見た目がこんなになってるから意外だけど、ドワーフって言われると納得はいくわ」
確かに、ドワーフと言われると、腕力があり、手先が器用で、それなりに長寿、と言うイメージがある。
「スキルに新しく《鍛治術》が生えていますから、その点でもイメージ通りのようですね。そして残念ながら《精霊術》は消えてしまったみたいです。エルフでなければ使えないのか、それとも、熟練度が一定に達しないと種族変更時に引き継がれないのかは検証が必要でしょうが……」
なるほど、そう言う影響もあるのか。
ただこの辺りは、種族ではなく、職業でも似たような事例が報告されているから目新しいことでもないな。
ある職業になるだけで得られるスキルがあっても、ある程度修練して熟練度を上げなければ他の職業に変えると消えてしまう、と言うのは普通にあるからだ。
「しかし、《鍛治術》か。ただの鍛治、じゃなくて術なのな」
俺がそういうと、みんなが確かに、という表情をする。
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