第292話 変わったギルド
「梓さん……」
俺がその人の名前を呼ぶと、以前と変わらない屈託のない笑みを浮かべて、
「うむ、まずは駆けつけ一杯……というわけにもいかんか。焼き芋を食え」
そう言って俺の口に熱々の焼き芋を突っ込んでくる。
通常の人間にこれをやられれば一発で大火傷だという温度だが、冒険者にはそうでもない。
熱い、という感覚はあるが、それで火傷を負う、痛い、みたいな感覚はないのだ。
普通に少し齧って、手で掴む。
「……なんだコレ。めっちゃうまいんだけど」
普通の焼き芋の味じゃ無かった。
甘味とかねっとり感とかが段違いだった。
梓さんは言う。
「ついこないだ、迷宮で見つかった迷宮さつまいもじゃ。スキルで無理矢理成長させて収穫したみたいでの。レア中のレアじゃ。まさか今の時期に東京都内でこれを焼いてる石焼き芋屋に出会えるとは意外じゃった……」
「しみじみと語ってるが、なんだよ、その石焼き芋屋……どんな利益があるんだ……」
「わからん。冒険者なんてみんな酔狂な奴らじゃしな。意味なんかないじゃろ」
「そういうもんか……」
「お主だってこの数ヶ月行方不明じゃったではないか」
そんな話をしていると、受付嬢二人が目を見開いてこちらを見つめていて、そちらを梓さんがチラリと見る。
すると受付嬢の一人が言う。
「あ、あの……顧問、その方って……?」
「ん? あぁ、お主らは知らぬよな。こいつはこの《無色の団》のギルドメンバーじゃぞ。ちょっと色々あってここ数ヶ月不在じゃったんじゃが……」
「そうだったのですか……天沢様、申し訳なく存じます。知らぬこととはいえ……」
「いや、構わないですよ。っていうか、俺の顔写真くらい周知しておいてくれなかったのか……?」
梓さんに聞くと、彼女は言う。
「お主がいなくなった次の日にはウェブに載っけておった顔写真も削除したらしいからのう。どうもここのところ、怪しいのがお主を探しているようで気を遣っておったのじゃ。まぁそうは言ってもお主の同級生とかが卒業写真でも出せば終わりじゃがな。気休めじゃ」
「怪しいのって……」
「お主の特殊性に気づく者も出始めたんんじゃろ。ま、遅かれ早かれそうなるとは思っておったが……あぁ、玄関ホールで話し続けるのもなんじゃ。こっちに来い。あ、お主ら、そういうことじゃから、次からはこやつが来たら普通に通すんじゃぞ」
受付に梓さんがそう言うと、二人の受付は直立不動の態勢になり、それから歩き出した梓さんに深く頭を下げたのだった。
なんだかめっちゃ偉い人扱いのようだ。
まぁ、顧問という役職だから間違いではないのか?
というかあれか。
滲み出る威厳みたいなのがこの人にはあるから仕方ないのか……。
そんなことを考えながら、俺は梓さんの後をついていく。
そして、梓さんが応接室の前に着くと、胸元からカードキーを取り出して壁際の装置に押し付ける。
ピッ、と軽く音がして、扉が開いた。
「……カードキー式になったのか……」
「以前は身内しかおらんかったから良かったが、流石にもうそうは言っておれんと導入したそうじゃぞ。社員証もしっかりあるから、お主にも後で支給されるじゃろ」
言いながら応接室の中に入ると、やはり内装は以前とは変わっていた。
前よりもくつろげる感じになっているような気がする。
よりプライベート感が増したというか……。
「いいのか、応接室こんな感じで」
俺がそう言うと、梓さんは答える。
「ここ五反田のギルドビルは基本的に身内しか使わんようにしたからのう。あの受付嬢二人も特に信用できるものを選び抜いた……というか、単純に雹菜の知り合いの娘じゃの」
「なるほど……というか、ここは身内だけって……」
「本部というか、名称は支部になるんじゃが、実質本部としてのギルドビルを丸の内に構えての。その結果じゃよ」
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