第293話 冒険者業界の現状

「……丸の内に、支部!? あの辺に支部構えてるのなんて、一流ギルドばっかりだろ。五大ギルドと、それに準ずるようなところくらいで……」


 俺が驚いてそういうと、梓さんは少し首を傾げてから、あぁ、と言った様子で言った。


「五大ギルドなんじゃが、《炎天房》と《黄雷剣》以外の三つは無くなったぞ」


「え!?」


「厳密にいうと、まだあるんじゃが、五大ギルドからは外れた。というのも、《転職の塔》攻略戦でいずれのギルドのリーダーも死亡してのう。まぁ、《初期職転職の間》の奥にいたレッサードラゴンの討伐には成功したんじゃが、そこでな。結果として、その先の迷宮部分については未だ道半ばじゃ……元々五大ギルドの戦力ありきで立てられた計画じゃったから、さもありなんという感じじゃな」


 《転職》によって就ける《職業》とは、《転職の塔》の《転職の間》において念じると出現するボードを使うことにより就くことができる、冒険者としての資質を伸ばすための特殊な地位だ。

 通常の職業とは違うわけだが、例えば俺だと《魔術師》になっている。

 まぁ俺の場合、さらに特殊だが……美佳とかは《炎術師》とか慎なら《騎士》とか。

 雹菜は《氷剣士》で、これも少しばかり特殊なようだが……。

 そんな《転職の塔》では、現状、俺が覚えている限りでは転職できるのいわゆる《初期職》のみであり、それ以上の職業に就きたいのなら《転職の塔》の奥深くへと進んでいく必要があると考えられていた。

 ただ、そこで問題となったのが、《初期職転職の間》の奥にいたレッサードラゴンだ。

 レッサー、とは言うものの、魔境以外で初めて確認された本物の竜族の魔物であり、その強力さときたら通常の魔物の比ではなかった。

 名のある冒険者が何度挑んでも倒すことが出来ず、攻略は困難を極めるだろうと言われていたが……そうか。 

 倒せたのか……。


「それにしても、五大ギルドの三つがなくなったなんて……」


 どれほど苛烈な戦いだったのだろう。


「実力が足りない者は入れない方針で攻略を進めたゆえ、全員で戦えたわけではなかったようじゃからな。それで、それぞれのギルドから腕利きを出して合同で戦ったようじゃ。じゃが、どこのギルドもギルドを代表する冒険者複数人を失ってはな……日本のギルドを代表するような地位を保ち続けるのは難しかったのじゃ。加えて、レッサードラゴンとの戦いでリーダーを失ったギルドは、その奥のダンジョン部分の攻略に強くこだわってのう。さらに弱体化してしまって……。そんな中、なんとか残ったのが、《炎天房》と《黄雷剣》、というわけじゃな。とはいえ、どちらも被害は大きいが……《炎天房》もリーダーを失ったから、従前の体制をなんとか保てているのは《黄雷剣》だけじゃな。それですら、ナンバーツーとスリーは失ったようじゃ」


 聞くだけでそのまずさが分かる。

 五大ギルドは、ただデカいだけのギルドではなかった。

 日本のギルド全体の利益のために活動し、またその統括を行なっているいわば日本の冒険者を代表する機関と言ってもいい存在だ。

 冒険者証、冒険者協会、そして五大ギルドがあることで、日本の冒険者たちの活動は保たれていると言っても過言ではない。

 それなのに、五大ギルドのうち、三つも縮小してしまったのでは……。


「じゃあ、今は二大ギルドに?」


「いや、雹菜の古巣……《白王の静森》と、賀東少年の《黒鷹》が昇格することになったから、四大ギルドじゃな。賀東少年はだいぶ固辞したようじゃが、冒険者たちの治安を守るためにしてきた活動が功績として評価されて、断りきれなくなったらしい。《白王の静森》は規模から言って順当じゃったな。攻略戦にも参加しなかったから、特に被害もなく、通常通り運営されておる」


「……はー……ほんの数ヶ月なのに、だいぶ隔世の感があるな……そりゃ、うちも丸の内にギルドくらい構えるか……」

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