第294話 気になること
「まぁ、お主が知っておる冒険者業界からすると、おおむね一新されたと言ってもいいじゃろうな。ただ馴染みの顔は比較的多いかもしれんが……」
「《白王の静森》とか賀東さんの《黒鷹》とか聞いてるとそうだな。まぁ、《白王の静森》は俺っていうより雹菜の方だけど」
「他にも色々と変わっていることがあるが……ここで語り切れるほどではないからこの辺にしておこう。ま、あとは自分で確かめることじゃ。色々変わっている、という事実だけ頭に入れておけば、それほどまごつくこともあるまい」
「そのために話してくれたわけか。わかった。ありがたい」
「なんの、なんの。これでも《無色の団》の顧問じゃからな!」
「つって何か仕事してる感じは前はなかったけど……今は何かやってるのか?」
「……いや? 強いていうなら、この五反田本部の管理かのう。たまに来て、ダラダラしておる」
「それは仕事と言っていいのか……」
「警備員みたいなもんじゃ。何もない時は特に動く必要がないだけよ」
「ものはいいようだな……あぁ、そうだ。丸の内の方が実質本部、とか言ってたけど、そういうことならあれか。みんなはそっちに?」
本題というか、俺がここに来た目的はギルドメンバーたちに会うことだ。
梓さんに会えたことで一部達成ではあるのだが、他のみんなにも会いたい。
まぁ急ぐことはないというか、別に明日でもいいんだけど。
そう思いつつ、俺が尋ねると梓さんは頷いて答えた。
「そうなるの。休みの日はこちらにいることも多いが……なんというかな、こちらは保養所のようなところになっているな」
「そうなのか……みんな元気そうか?」
「お主がそれを訊ねるのか……?」
俺の言葉に目を細めてそう言った梓さん。
まぁ、言いたいことは理解できた。
「いや……その、まぁ……うん……」
「多少の気まずさは感じているようで何よりじゃ。というかお主、どこ行ってたんじゃ? 今更じゃが」
「それが……」
そして梓さんに今まであったことをかいつまんで話した。
すると梓さんは言った。
「世界を渡っておったか……まぁ、大体予想していたことじゃな。外れてなくてよかったわい」
俺はその言葉に驚く。
「わかってたってのか?」
「絶対そうだ、とか思っていたわけではないぞ? じゃが、雹菜たちの《ステータスプレート》から《オリジンの従者》が消えておらんかったからな。生存は確信しておった。そして、お主の存在を探しても、この世界には見つけられなかったからのう。最も高い可能性は、世界を渡った、ということじゃった」
「《オリジンの従者》は、俺が死ぬと消えるのか……?」
それは知らなかった情報である。
ただ、論理的に言ってオリジンが死んだら従者も何もないと言うのは簡単に想像は出来る。
しかし確信することはできないように思うが……何せ《ステータスプレート》がどんなものなのか、いまだにはっきりとはわかっていないからだ。
けれど梓さんは言う。
「おそらくはな……わしの経験でも、似たようなことがかつてあった。《ステータスプレート》はなかったが……まぁ、この推測は外れまいて。実際、お主はこうして生きてここに戻ってきた」
何か話せないことがあるらしい。
別に話したくなくて話さないとかではなく、話しても以前のように聞き取れない言葉になってしまうことを理解しての遠回しな言い方なのだろう。
その辺り、無意味な隠し事をしないという信頼が、梓さんにはある。
「なんとか戻れたけど……戻れない可能性もあったからなぁ」
「その場合は、わしがどうにか辿って連れ戻しておったじゃろう」
「……もしかして、梓さんって異世界に行ける?」
「元々わしがいた世界には戻れんが……無理をすれば、少しくらいはわたることはできなくもない、くらいのところじゃな。とはいえ、できる限りそんなことはやりたくはない。自力で戻ってきてくれて、よかった」
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