第295話 再会
「自力かどうかは微妙な話だけどな」
俺がそう言うと、梓さんは言う。
「例の神を名乗る女か?」
「そうそう。なぁ、梓さん。神様っているのか?」
「難しい質問じゃな。いると言えばいるし、いないと言えばいない……今答えられるのはそんなとこじゃの」
意味深にも程がある言葉に俺は言う。
「なんだそれ……まぁそれ以上は話そうとしても話せないのか……」
「今はそのようじゃ。全く忌々しいことよ……」
ため息をついてそう言った梓さん。
そんな中、急に外から大きな音が聞こえて来る。
「……? なんの音だ?」
俺が首を傾げると、梓さんが笑って、
「……来たか。こうなるとは思っておったが、本当に何もかもほっぽりだして来おったな……」
と言う。
どういう意味か、と問い質そうと思った俺だったが、その直後、階段を物凄い勢いで誰かが降りてくる音がし、そして部屋の扉が開け放たれた。
「あ……?」
と驚いてそちらを見た俺だったが、誰が来たのか確認する前に、胸元に衝撃を感じる。
鼻先にふわりと髪の冷たくも甘い香りが漂い、あぁ、これは懐かしい匂いだなと改めて思った。
もちろん、その香りの主にも心当たりがある。
こちらの世界にいる時はいつも嗅いでいた匂いだ。
胸元に感じる質量が起き上がり、その顔が明らかになる。
「……雹菜。泣くなよ」
俺がそう言うと、彼女は……白宮雹菜は涙で濡れた顔で少し笑った。
「……無茶言わないでよ。私がどれだけ心配したと……!」
「悪かったって……でもほら、どうしようもない事情がたくさんあってさ。俺だってさっさと戻ってきたかったんだけど……」
「……黙って」
言い訳をする俺に雹菜はひと言そう呟いてから、距離を詰めてくる。
と言っても、膝の上に乗っている格好なので元々ほぼゼロ距離なのだが、今度は顔が思い切り近づいてきて……そして、本当にゼロになった。
柔らかい感触が唇に感じられ、俺は目を見開く。
「雹菜……お前……」
「……何よ。文句でもあるの?」
「いや、ないけど……なんかいいのか? 俺なんかで……」
「……いまさら? 鈍感系なの? 好きでもない男に自分の家の鍵なんて渡さないわよ」
「あれは事務的に必要なのかと……」
「そういう面も確かにあったけどね。一番の目的はそれじゃないわ」
「そ、そうか……いや、鈍感系とかそんなつもりはなかったけどさ……」
まぁ好かれてるなと言うか、異性として見てもらえてるかも?くらいは思っていたさ。
しかし確信はなかった。
それこそただの勘違いの可能性もないではない、そう思ってないといざ振られたらやっていけない、と思ってあまり触れずにここまで来たのだから。
でも、これは夢じゃないみたいだな……。
雹菜は改めて俺の顔を見て、柔らかな笑みを浮かべつつ、言う。
「私は……創が好き。創は?」
「あ、あぁ……俺も……その、好きだ……」
「じゃあ、することがあるでしょう?」
そう言って、雹菜が目を瞑る。
美しさと可愛らしさが同居した顔が目に入る。
いつも見ていた以上にまつ毛が長いんだな、とかそんなことがぐるぐる頭の中を行き過ぎるが、流石にここでなんの度胸も発揮しないほど、俺はヘタレではいなかった。
雹菜の腰を抱き、口づけをする。
そして……。
「……お主ら、盛るのは良いがわしの存在を忘れるでないぞ……?」
そんな声に我にかえったのだった。
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