第224話 エリザの用事

「……だいぶいい宿だな、ここ」


 あれから、エリザに紹介された宿に部屋を取った。

 俺だけでなく、ミリアとエリザも泊まるが、流石に部屋は別である。

 ミリアたちが一部屋、俺が一部屋で、なんだか結構贅沢をしているような気分になってくるが、ミリアたちの方の部屋が広いのでそこまででもないだろう。

 ただ、一般的な平民は大部屋を取るもので、個室を取れるのはそれなりに稼いでいるものや裕福な家の者に限られる。

 この場合のそれなりに稼いでいる、というので一番わかりやすいのは冒険者だな。

 冒険者は最低限、魔物を倒せるような者なら、個室を取る。

 これは稼いでいるという以上に、武具や魔道具、素材などを奪われないためというのが強いらしい。

 大部屋なんかに泊まっていると、冒険者はいつ持ち物を奪われるかわかったものではなのだという。

 物騒というか、地球は日本に比べて殺伐としているが、外国とか考えるとまぁそんなものかなという気もする。


「駆け出しが泊まるには少し躊躇するかも、というくらいの宿だからな。しかし女の身で宿を取るなら、これくらいでないと安心が出来ん。まぁ、私はどこででも眠れるが、ミリアがな」


「私だってどこでも泊まれるけど……でもエリザに比べたら直接戦闘能力、あんまり高くないから……このくらいの宿の方がありがたいかな。食事も美味しいし」


 ミリアはモグモグと食事を味わいながらそう言った。

 今、俺たちは宿の食堂で遅れた昼食をとっているところだった。

 領都に着いたのが、太陽が中天に上がっている時だったから、今は二時くらいかな。

 まぁ、そんなに遅くもないだろう。 

 煮込みに黒パン、それに少しばかりの野菜と、こういう世界にしては豪華なメニューのように思うが、それはミリアたちからしてもそうらしい。

 村で出た食事はもっと豪華だったが、あっちは産地直送だからな。

 地球のような交通網が発達していない世界で、それなりに鮮度のいい素材を使った食事が出てくるだけ、ありがたいものだと思う。

 

「しかし、これくらいの宿にずっと泊まり続けるためには流石に無職のままじゃ無理だな。食べ終わったらギルドに行くってことでいいか?」


 今の俺の懐はかなり暖かいし、そこから見ると宿代は大したものではないが、ずっとというわけにはいかない。

 一泊銀貨三枚で、ずっと続けていたらひと月くらいはいけそうだが、他にも色々金は使うだろうしな。

 この世界で気になっていることは実は色々あって、特に魔術については知りたいと思っている。

 どうも、話を聞く限り、スキルとは違うようだからだ。

 実はミリアも身につけていて、それでもって冒険者として生きていこうと考えているようだ。

 しかし使っているところはまだ見ていなくて、その理由は彼女が魔術の《発動体》を持っていないため、使えないからだという。

 《発動体》が必要、か。

 以前、梓さんから、不可視の力を道具に頼らずに使えるのは《オリジン》だけ、と聞いたが、この世界でも同じなのかもしれない。

 梓さん自体、他の世界の出身だというし、どんな世界でも共通なのだろうか?

 確かめようがないな……。

 そんなことを考える俺に、ミリアが言う。


「そうですね。私はこないだ来た時、登録だけは済ませたので案内できますよ! エリザは……」


「すまないな。私も着いていこうと思っていたのだが、貴族街に行ってこなければならん。明日なら良かったんだが……」


 エリザの用事だが、カーク村の近隣にしか生えない薬草を納める依頼を受けていたらしい。

 貴族からのもので、そこまで急いではいないらしが、村から戻り次第すぐに納品をと言われていたので、今日中に行ってくる必要があるという。

 それならそれで、仕方がないだろう。


「登録って何か特別なことをしなければならないわけじゃないんだろ? だったら大丈夫さ。それに、出来ることは早めに終わらせてしまった方がいいしな」


「そう言ってもらえると助かる。代わりに、明日は一緒に依頼に出れるぞ。三人でパーティーを組んでな」


「あぁ、頼むよ……じゃ、また後で」


「うん、二人とも気をつけてな。ギルドは荒くれ者ばかりだから、揉め事の可能性もある……まぁ、ハジメがいれば大抵は平気だろうけどな」


 そして、俺たちは宿を出て別れた。

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