第67話 幼馴染たちへ

「……スキルじゃなくてアーツ、か。なるほどな。確かに言われてみると、創が《最下級身体強化》を発動させてるとき、なんか変な感じはしたよ」


 大まかな俺の事情について伝えると、慎がしみじみとした口調でそう言った。

 

「妙に発動が速いし、普通の《最下級身体強化》の強化率とはものが違う感じは私もしたわ。魔力も……なんていうか、ロスが少ない気がしたし」


 美佳もそう続けた。

 二人とも、当然、俺のように魔力を視認することは出来ない。

 だが、それでも魔力の動きなどは感じられる。

 いわゆる第六感みたいな感じだな。

 ただ、これが出来るのもまた、才能が無ければ難しい。

 出来ない冒険者見習いは沢山いる。

 本職の冒険者でも出来ない者は出来ない。

 この二人は優秀なのだ。


「大体同じ事をやってるんだけど、二人の言うとおり、効果には結構な違いがあるのは確かだよ。それに《ステータスプレート》には、《天沢流魔術》って表示があるし。ほら」


 そう言って《ステータスプレート》を出現させ、二人に渡す。

 すると二人は、


「……うわっ、本当だ。《天沢流魔術》って書いてある。それにスキルもマジで一つも無いな……」


「……器用と精神どうなってんのよ。えっ、ななひゃく……? 化け物?」


 そんなことを言って目を白黒させた。

 ただ、だからといって二人の俺を見る目が大きく変わる、なんてことにはならなかった。

 当然だ。

 そんなことは分かっていた。

 こんなことなら最初から見せていれば……という気もしなくもないが、別に信用してないから見せなかったというわけではないから別の話だな。

 知ってるとかえって危険な情報だろう、と思ってのことだった。

 だが今回のことは完全に俺のせいで……だから俺は言った。


「今まで色々隠してて悪かった。それに……今回の《ゴブリン暗黒騎士ダークナイト》……さっき戦った魔物が出てきたのは、多分俺のせいなんだ。それも含めて……なんて謝ったらいいのか」


 深く頭を下げる。

 もちろん、それくらいでは許されることではないだろう。

 何せ、本当に命の危機だったのだ。

 色々な要素がうまく噛み合わなければ、俺たちは全員、ここで死んでいた。

 けれど、二人は言うのだ。


「いいって。気にすんなよ……こんなステータス見せられたら、お前が考えたことも分かるってもんだ。俺たちだって、お前と同じ状況だったら多分、同じ事したと思うぜ」


「そうよ。むしろ適切にこんな情報を扱うやり方が……正直思いつかないわね。喋らなければ、バレないってのが一番簡単だと思う……あっ、でも雹菜さんには言ったんだっけ? ちょっとそれはねぇ……やっぱり美人には弱いわけ?」


 少しからかい気味の口調で美佳がそう言った。

 俺はあわてて首を横に振って、


「いやいやいや! そういうことじゃないって……雹菜は、強いだろ。地位もある。だから、お前たちよりも危険は無いと思って言ったんだ……それに、すでにある程度、俺がおかしいことはバレてたからな。隠しても無駄だろうって思ってのことだよ」


「《豚鬼将軍》、本当は創が倒したって話ね……前に聞いてたら本当?って思ってたところだけど、今回の戦いぶりを見たら、そんなことは言えないわね。最後の技、あれって《天沢流剣術》って奴?」


 ふと美佳がそう言ったので、俺は首を傾げる。


「……《天沢流剣術》? なんだそれ」


 すると、これには慎の方が答える。

 《ステータスプレート》を示しながら。


「なんだそれって、アーツの欄に書いてあるぞ。ほら、《天沢流魔術》の隣に」


「……本当だ」


 《ステータスプレート》を見ると、確かにそこには《天沢流剣術》が追加されていた。

 タップすると、ツリー構造となってそこには《穿牙せんが》の文字がある。

 いや、天沢流って…….


「あれって慎の技だぞ? なんで天沢流扱いなんだ?」


「あぁ、そういや俺の技パクったとか言ってたな……別に俺のは技ってほどでも。スキルを複数同時に発動させただけだし、今まで一回も成功したことなかったしな」


「えっ? でもあのときは……」


「あれが記念すべき一回目だよ。お互い悪運強いな、創」


「……ちょっと待てよ。それなら……おい、慎、お前も《ステータスプレート》見てみろよ」


 ふと思いついて慎にそう言うと、彼は怪訝な顔をしつつも、


「あ? あぁ……まぁ、今回のでステータス上がってるだろうし……ん? おぉ!?」


 《ステータスプレート》を見て、驚きの声を上げた。


「やっぱり、記載に変化があったか?」


「あぁ……アーツに《柴田流穿牙》って書いてある!」

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