第272話 経験と成果

「……勝てた。勝ったぞ! 二人とも!」


 二頭石魔導人形が倒れた後、少しの間警戒し続け、そして全く動き出さないことを確認した後。

 エリザが腕を大きく上げて叫んだ。

 その顔は興奮に火照っていて、相当に嬉しいのだろうということが察せられる。

 俺の後ろにいるミリアも、その声を聞くと同時に走り出して、エリザの元に辿り着くと彼女に抱きついた。

 そして、


「やったわね、エリザ!! まさか私たちでこんなに強い魔物を倒せてしまうなんて……!!」


 と、どちらかといえば、育ちが良く物静かな印象の強いミリアも珍しく喜びを体全体で表しているようだった。

 聞くところによれば、たった今倒した二頭石魔導人形は、駆け出しにはまず倒せず、中級者に近いか、それを超えているものでなければ無理だということだった。

 もちろん、エリザに聞いた話だが。

 それを、まだ駆け出しである三人で倒せてしまったのだ。

 喜ぶなというのが無理話だった。

 

「あぁ、本当に嬉しいな……だが、これを自分の実力と勘違いしてしまうとまずいぞ。何をどう考えても、ハジメの補助魔術のおかげなんだからな」


 エリザが冷静に戻ってそう言った。


「それは確かにそうよね……というか、魔術! 魔術の威力まであんなに上がるなんて想像もしてなかったわ……本当なら、私の炎槍は三本も出ないし、あんなに強力でもないのに……もちろん、術者によって威力に差が出るのはもちろんなんだけど……」


 ミリアも困惑しながらそう言った。

 言いながら、視線は俺の方を向いている。

 だから俺は答えた。


「その辺のところは俺にもなんとも言えないな……でも補助魔術ってそういうものなんじゃないのか? そもそも、ミリアにかけた魔術強化だって、ミリアが教えてくれたものだろ?」


 詳しい効果については、むしりミリアの方が詳しかろうと思って。

 しかしミリアは、首を横に振って言う。


「確かに多少、強化はされますよ? でも、それはせいぜい火勢がちょっと強くなるとか、貫通力が少しばかり上がるとか、そんなもので……元々一本しか出せない炎槍が三倍になるとかじゃないです……」


「でもできちゃったんだよなぁ……」


「それが! おかしい! んですよ! ……と、言ってもしょうがないのはわかってるんですが……。うーん、でもハジメさんといると魔術の可能性の大きさを感じますね……。やりようによっては、間違いなくこれだけの威力が出せる。その実証がここにいるんですから……目標として、凄くいいものを見させてもらってる気がします」


「だったら良かったよ。変なもの見せてしまってるかもしれないって思っちゃって」


「変なものは間違いなく変なものなんですけどね……」


 ミリアが微妙な表情で言うが、エリザは、


「変でもなんでもこんなに強くなれるならなんでも構わないけどな。私は、何歩か先の世界の感覚を経験させてもらった気がして、良かったぞ。この速度で動けば、こういう世界が見えるのかと……。これからの鍛錬に力が入る。もちろん、動き自体は今の私のままだから、改善すべきところばかりだけどな」


「結局、みんなにはプラスになってるのかな?」


「それは当然だ! こんな経験、まず普通は出来ないからな……ん? しかも、運もいいみたいだな、ハジメは」


 ふと後ろを振り返ってエリザがそう言った。

 なんだろう、と思っているとミリアが、


「あーっ! た、宝箱! あれは……銀箱!」


 と叫ぶ。

 見れば、二頭石魔導人形が倒れている横に、銀色の宝箱が出現していた。

 二頭石魔導人形の遺骸はまだ消えていないが、得られる素材は核と魔石くらいだという。

 本当なら石材も使えるらしいが、持ち帰るのが難しいから大体放置されるという。

 俺の場合は持ち帰るのも可能だから、片腕くらいは持って行こうかな。

 ともあれ、まずは宝箱の確認か。

 俺たちは銀箱に向かって近づく。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る