第271話 二頭石魔導人形

 そして、その瞬間は訪れる。

 俺たちと二頭石魔導人形の距離が、十メートルほどになったその時、奴は動き出した。

 巨大な質量が、揺らぐ。

 それを見て、


「……二人とも!」


「あぁ!」


「お願いします!」


 叫んだ俺の声に、ミリアとエリザが答える。

 ミリアは呪文を唱えるべく俺の後ろで杖を構え、エリザは前衛としての役割を果たすべく、二頭石魔導人形に向けて走り出した。

 通常ならエリザには二頭石魔導人形に対し、一人で挑めるほどの能力はない。

 けれど、俺のかけた補助魔術の効果で、今の彼女の速度は通常時の数倍にもなっているように見える。

 かけた俺でも、何倍の強化率かは分かってはいないが……無効に帰ったら、ステータスプレートとか見ながら確認してみたいところだな。

 こっちの世界だと、俺しか持っていないから……。

 

 対して、二頭石魔導人形は、近づいてきたエリザの存在をしっかり認識しているようだった。

 その証拠に、片方の頭が、ギンッ、と睨めつけるようにエリザの方に向く。

 もちろん、全くの棒立ちなんてことはまずありえず、奴はその腕を振り上げた。

 ……速い。

 あの巨体から想像出来るスピードではない。

 初見なら、生半可な実力であれば一撃でやられかねない程のものだ。

 これが浅層のボスか、と思うが、しかし不安はまだなかった。

 なぜなら、エリザは二頭石魔導人形の動きをしっかりとその目で捉えていた。

 それどころか、振り下ろされるその腕を僅かな動きで避け、切り付ける。

 それは、もしかしたら彼女としては、ちょっとした様子見程度の攻撃だったのかもしれない。

 しかしその攻撃は、予想以上の成果を出す。


「なっ……!?」


 当然、エリザの驚きはその成果に向けられていた。

 何せ、二頭石魔導人形の腕が、半ばから切り落とされたのだ。

 それによってバランスを少し崩す二頭石魔導人形。

 少し慌てたとはいえ、エリザもその隙を見逃しはしなかった。


「はぁぁぁ!!」


 裂帛の気合いと共に、彼女は今度は胴体を狙った。

 けれど、中枢部があるのだろう胴体部だけあり、さすがに腕とは違い、耐久力が高いようだ。

 ある程度の切り傷を刻んだようだが、真っ二つ、とはいかなかった。

 それを理解したエリザはすぐに逆側の腕に向かったが、それよりも早く二頭石魔導人形の腕が横なぎに振られ、


「……ッチ!」


 エリザは舌打ちをしながら下がった。

 しかしその時、俺の後ろで呪文を唱えていたミリアの魔術が完成する。


「二人とも、行きますよ……《炎槍フレイムジャベリン》!!」


 起動句を口にすると、ミリアの前に巨大な《陣》が形成され、そこから大きな炎の槍が三本、射出される。

 ミリアは、


「えっ、うそ……」


 と呆然と呟いているが、既に完成した魔術の効果に影響はなかった。

 炎の槍はそのまま物凄い勢いで二頭石魔導人形の元へと飛んでいき、そして胸へと命中する。

 轟音が鳴り響き、二頭石魔導人形の体が傾いていく。

 

「……まだだ! エリザ!」


 俺がそう叫ぶと、


「あぁ!」


 とエリザが返答したので、俺は走り出す。

 もちろん、倒れていく二頭石魔導人形の元へと。

 炎槍の煙が晴れると、その姿がはっきりと見えた。

 エリザの剣によって付けられた跡から、胴体が割れているのが見える。

 そしてその間から、石魔導人形の核も見えた。

 

「二つ……」


「同時にやるぞ、ハジメ!」


「あぁ!」


 そして剣を核に向かって刺しこむ、俺とエリザ。

 二頭石魔導人形は俺たちを止めるべく動こうとしたが、俺たちの方が早かった。

 僅かに震えると、ぱきり、と核が割れ、そのまま二度と動き出すことはなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る