第273話 箱

「……中身は……メイスか、これ」


 そこにあったのは大ぶりのメイスだった。

 そもそも、宝箱自体が相当に大きかったから、何かそれに見合うサイズのものが入っているとは思っていたが……。


「私もミリアもこれは使えんな。ハジメが使うか?」

  

 エリザがそう言ってくるが、俺ももちろん首を横に振る。


「いや、俺もメイスって感じないからなぁ……」


 俺の武器は《豚鬼将軍の黒剣》だ。

 もしこれが壊れたとしても、次に選ぶのはメイスではなく剣になるだろう。

 予備の武器としても流石にメイスはな……。

 まぁでも、魔導人形系を倒すのに一番効率の良さそうな武器はこれなのかもしれない。

 倒したら出てくる、というのも微妙な話だが……。

 ただ、ここから先の階層にも魔導人形系の魔物は普通に出てくるそうなので、問題ないと言えばないのか。

 むしろお役立ち装備品ではあると。


「では売却かな。結構な値がつきそうだ。ここの二頭魔導人形のドロップ品でメイスは聞いたことがないからな」


「そうね。やっぱり銀箱から出ただけあって、珍しいんでしょうね」


 二人がそんなことを言っているので、俺は尋ねる。


「その銀箱ってなんだ?」


 すると二人とも、あぁ、という顔をして、


「なるほど、基本的知識過ぎて説明してなかったな。ということはハジメの世界では違うのだろうか。迷宮のボスを倒すと出現することのある宝箱だが……色によって中に入っているアイテムの大まかな価値が分かるんだよ」


 エリザがそう言い、さらにミリアが続ける。


「一番下が、木箱ですね……で、銅箱、銀箱、金箱と価値が上がっていくんです。いい色の宝箱が出るとみんな喜ぶんですよ。一番上は何箱なんだか分からないんですけどね」


「ん? どういうことだ?」


「金よりも上があるらしんですけど……本当なのかどうか分からない、みたいなレベルなんです。白金箱はこの国の建国王がかつて見つけたとは言うんですが、それも昔のことすぎるので……」


「そんなに見つからないものなのか……」


 俺がそう呟くと、エリザが言う。


「見つけた、というのは箔付の嘘で、本当は金箱かもしれないしなんとも言えんな。そんなものだ。そもそも、宝箱の中身は色だけで決まるわけではない。どちらかというと、深い階層のものであることの方が重要だからな。一階層の金箱の中身が、十階層の木箱の中身に劣るというのは割とありがちな話だ」


「なるほど。あくまで運試しみたいなもんか。正道は実力で持って出来るだけ深い層の宝箱を得ることだ、と」


「そうなる。まぁ、運がいいに越したことはないがな。少なくとも、自分が潜れる階層よりも、深いところでしか得られないアイテムを得られる可能性があるのだから」


 そんな話だった。

 それから、俺たちは二頭魔導人形の核と魔石、それに少しばかりの石材を回収して、今日のところは上に戻ろうということになる。

 流石にボスを倒した後に、これ以上下に進む気力は湧かなかったからだ。

 ある程度、俺の魔術も試せたし、一日目の成果としては悪くないだろう。

 直接的な攻撃魔術はまだ試せてないから、これは明日だな。


 *****


「……ということは、ハジメの補助魔術は、自分にかけられないのか?」


 地上に戻り、簡易的に作られた宿を取った後、俺たちは酒場に行った。

 迷宮のこれだけ近くに酒場まで出来ているのは、やはり今がこの迷宮の稼ぎ時だからだろう。

 品揃えも結構良く、街にいる感覚と変わらない。

 そこで俺は補助魔術の使い勝手について話していた。


「かけられないことはないな。ただ、俺の場合、実際に目で見ながら描いてるから……若干自分にかけるのは難しいんだ。練習して慣れる必要がありそうだ」


「私の価値がしばらくは無にならなそうで良かったです」


「心配しすぎだって……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る