第348話 戦闘

「思った以上に大きいな……確かにあれは変異種としか言いようがないか」


 巨大なリザードマンを目の前に、俺がそう呟く。


「鑑定でも間違いなく変異種と出ていますね。大体のステータスはこんな感じです」


 静さんがそう言って教えてくれたリザードマンのステータスは……。


 名称:*****

 種族:フォレストリザードマン《変異種》

 一般スキル:《下級木術》《下級地術》《最下級属性吐息》《下級剣術》《下級槍術》

 概要:通常のフォレストリザードマンよりも巨大に成長し、魔力・身体能力共に上位となったもの。


 そんな感じらしい。

 説明文が大雑把な気がするが、その点について指摘すると、


「ボスモンスターについては、あまり詳しく分からないのです。そうではない魔物についてはもう少し詳しく分かりますが……」


 ということのようだった。

 まぁ、種族とスキルが分かれば基本的にはそれでいい。

 可能ならば、数値的なステータスが分かればいいのだが、そちらについてもボスモンスターは見えないことが多いらしい。

 ただ、倒された瞬間を実際に目にしていれば、次に見た時は結構様々な情報がわかるようだ。

 このフォレストリザードマンは一度も倒されているところを見ていないから、こんなものだろうとも。


「万物鑑定と言っても限界はあるんだな?」


「私が使いこなせていないのもあると思いますが……どんな力にも限界はつきものでしょうね」


 それは、他人の能力をその力が見続けてきたからこその言葉だったかも知れなかった。

 なんか妙な含蓄のようなものを感じた俺だった。

 ともあれ……。


みぞれ、そろそろやるか?」


 俺が霙に尋ねる。

 リザードマンを目の前にして話していられるのは、向こうが動かないからだな。

 ボスモンスターは、その間合いに入るとか、なんらかの条件を満たさないと動かないものが多い。

 もちろん、だからと言ってここから遠距離攻撃したら、その時点で動き出したりするし、動かないからと言って一時間も二時間もここで突っ立ってる、とかしても同じように向こうからやってきたりするのだが。

 その辺りはそこまで都合よくは出来ていない。


「キュッ!」


 霙は俺の言葉に返事をし、勇ましく構える。

 俺はそれを確認して、


「よし、じゃあ行け!」


 と指示すると、霙は地面を踏み切った。

 基本的には俺の指示に従ってスキルを繰り出す霙だが、大雑把な指示を与えると、自分の意志でしっかりとスキルを使うのでこんなものでも大丈夫だ。

 もちろん、《滅尽吐息》と《下級無術》については使用しないように事前に言い聞かせている。

 あれらは危険だ。

 よほどピンチの時にだけ、俺の指示で使う、ということにしておいた方がいい。

 その代わり、他のスキルについては自由に使って構わないとしている。


 向かってきた霙に対して、リザードマンはその手に持った大剣を引いて構える。

 その場で待ち受ける体勢だった。

 それだけでも、その辺の魔物とはちょっと違うな、と感じさせた。

 このくらいの階層にいる魔物たちは、敵と見れば自ら突っ込んでくる良くも悪くも好戦的な魔物ばかりだ。

 けれど、あのリザードマンには、どう戦えば自分がより有利か、それを考えるだけの知能と落ち着きがあるようだった。

 武人のような雰囲気をしているし……霙にとってはいい相手になるのかも知れない。

 

 そして、霙はリザードマンの直前まで近づくと、その爪に力を込める。

 《下級爪術》の発動だな。

 爪の周りに闇色のオーラが纏われ、それをかかと落としのように振り上げて、リザードマンに振り下ろした。

 それこそ、その辺の魔物なら一撃で真っ二つになるような一撃。

 しかし、リザードマンはその動きをよく見て、少し下がって回避する。

 自らの大剣で受ければ、その剣も無事で済まないと理解したのかも知れない。


「……かなりやるじゃないか、あのリザードマン」


 つい、俺の口からそんな言葉が出てしまうくらいに、強敵に見えた。

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