第349話 戦いの帰趨
霙がその持つ身体能力と強力なスキルでのゴリ押しに近い戦い方をしているのに対して、フォレストリザードマンの方はそれをうまくいなし、避け、ほんの僅かな隙を狙って霙に攻撃を加える。
そんな戦い方をしているのだ。
明らかにその辺の雑魚とは違う。
それ自体は、ボスモンスターだから、という説明がつけられはするのだが……。
「……それにしたって、五層のボスにしては強すぎないか?」
俺がそう口にすると、雹菜が言う。
「たまにいるのよね。明らかにその層のボスモンスターとしての格を何段も上回ってる奴が。こういう、次の層へ行くために必ず倒す必要のない階層主にはその傾向があるわ。でも、ここのフォレストリザードマンがそこまでだったのは知らなかったわね……これは助けに入る必要が出てくるかも?」
「やっぱりあれ、相当強いんだよな……まぁ、そういう話は俺も高校で教えられた記憶があるよ。でも滅多にいないって話だったから……」
「珍しいのは間違いないわよ。それに、こういうやつって滅多にリポップしないのよね」
「あぁ、次にリポップするときは、別に魔物になる?」
それも教えられた記憶がある。
「そういうこと。あれも多分、そういうやつだわ……集めてた話によると、もっと弱かったような情報しかなかったからね」
「霙も運がないのか……」
かわいそうに、と思っていると、
「あ、でも決着がつきそうですよ」
静さんがそう言った。
もちろん、俺たちも目を逸らしてたわけじゃない。
だから、どういう決着がつくのかははっきりしていた。
迷宮の魔物とはいえ、僅かな間に極度に動くと多少の疲労はする。
数十秒で回復する程度だが、実力が拮抗しているとその程度の隙ですら致命的なのはいうまでもない。
息が切れて大剣を上げるのに少し時間がかかった、それだけのことだが、その隙を見逃す霙ではなかった。
霙の体に闇色のオーラが纏われ、地面をかける。
目にも止まらぬ速さで突進し、そしてフォレストリザードマンの胸部へとそのまま突っ込んだ。
そして、その胸元を、体で丸ごと貫いてしまった。
「……エグい攻撃だな……」
流石の魔物とて、心臓丸ごと持っていかれれば一撃だ。
事実、フォレストリザードマンはその巨体をぐらつかせると、そのまま轟音と共に倒れたのだった。
霙の方はといえば、着地した直後は少し深く息を吸っていたが、すぐに、
「……キュッキュ〜!」
と機嫌よさそうにこちらにかけてくる。
その様子は、先ほどまで巨大なフォレストリザードマンと死闘を繰り広げていたとは思えないほど和むものだ。
「……大物ね……」
「まぁ竜だしな……」
俺と雹菜は顔を見合わせつつそんなことを呟く。
それから近づいてきた霙を抱き上げて、
「よくやったな!」
と撫でると嬉しそうに喜ぶ霙だった。
それから、
「喜ぶのもいいですが、魔石を確保しませんと。ついでに珍しいボスですから解体もしましょう。素材として高く売れます」
と静さんが冷静に言う。
霙のレベルを10まで上げるには、魔石の摂取が必要なのだ。
また魔物の素材は、倒してから時間が経たないうちに解体に着手すれば、迷宮に吸収されて消えてしまうことはない。
「そうだな……三人でやればあれくらいの大きさでもすぐ終わるか。持ち帰りも収納袋があるし」
俺のは言わずもがな、雹菜や静さんもかなり大きな収納袋持ちなので言えることだった。
「では早速……おや? フォレストリザードマン以外に、ドロップ品があるみたいですね」
近づくと、そこには何か球体が転がっているのが見えた。
それを見て、雹菜が呟く。
「……これって、《従魔の卵》じゃないの?」
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