第350話 摂取

「……なんで《従魔の卵》が……? ものすごく出にくいって話じゃなかったか?」


 その球体を手に、俺はそう呟く。

 魔力を注いではならないので慎重に。

 《従魔の卵》は魔力を最初に注いだ人間を主人と認めるのだから。

 

「ええ、相当に出にくいわね……少なくとも、見つかったという話が聞いたのは数えるほどよ。それ以外は見つけた人やギルドが秘匿して自分たちで使ってるのでしょうね。《黒鷹》にも何人か従魔持ちはいるみたいだし。でも数えるほどなのは変わらないわ」


「あの巨大ギルドでも数人ってなるとなぁ……そうだよな。で、だ……これってやっぱり《従魔の卵》でいいんですよね?」


 俺がそう尋ねたのは静さんにである。

 彼女の力ならば、これがなんなのかはっきりする。

 静さんは頷いて、


「……間違いなく、《従魔の卵》ですね。しかも、《伯魔の卵》のようです。かなり上位の従魔がこれから得られるでしょう。もしもオークションにかけたら……今なら数億、数十億になってもおかしくはないでしょうね」


「数十億って流石に……え? マジなんですか……?」


 乾いた笑いを浮かべて聞いた俺だったが、そんな俺に対して、雹菜と静さんの表情はいたって真剣で、冗談を言っている様子は全くなかった。

 まぁ……迷宮から得られる魔道具や素材の類の価格は、それこそ珍しければ億クラスのものも普通に出るのだ。

 それを考えると、何も今更、という話ではあった。


「それで、どうするの?」


「え? どうするって?」


「それをドロップしたのは、みぞれなんだから、それの持ち主は、従魔の主人である創になるじゃない。売るの、って話よ」


「えぇ、俺の!? でもパーティーで来たんだからみんなのって感じじゃあ……」


「戦ったのは霙だしね。私も静さんも手を出したわけじゃないし。それに思ったのだけど、その《従魔の卵》が出たのって、霙がボスを倒したからじゃないの?」


「どういうことだ?」


「今まで、《従魔の卵》がドロップすることなんて滅多になかったのに、今回はいきなり出たでしょう。しかもこんなに低い階層で。たまたまものすごく運が良かったから、と解釈することはできなくも無いけど、何か合理的な理由があると考えたほうが生産的じゃない。で、考えたのが……」


「霙が倒したから、と……どうなんだそれ」


 首を傾げる俺に、静さんが言う。


「あり得ない話ではないでしょうね。今、様々な職業についている冒険者たちがドロップ率などを調べたりしているのですが、剣士が魔物を倒すと剣がドロップしやすいとか、騎士や重戦士だと鎧が出やすいとか、結構偏りがあるのが分かりつつあります。そこからすると、従魔が魔物を倒すと、それに類するものが出やすくなる、というのは自然な話だと」


「それだと従魔士が倒したら《従魔の卵》が出やすいって感じの方が納得できるけど」


「もちろん、その可能性もあるでしょうが、従魔士の方々はそこまで腕っ節が強い人はまだあまりいないでしょう。数も少ないですし。ボスを倒した時だけ、出る可能性もあります。だとするとそうそう検証は出来て無いかと」


「うーん……これはすごい情報かもしれないなぁ。でも、はっきりしたら従魔が結構気軽に手に入るようになるのか」


「それはいいわね。ペット的にも人気が出そうだし、強いから軽い護衛くらいには出来そうだし。ただ、そこまでポンポン出るのかはなんとも言えないけどね。さっきのフォレストリザードマン、かなり強かったし、特別なボスだったから。そういう時じゃないと出ないかも」


「これは後々検証する必要があるな……ま、今はそんなところか。で、それよりも重要なのは……」


 そこで霙に目を向ける。


「キュ?」


「これから霙にはこの魔石を食べてもらいたいんだが……食べれるか?」


 ステータスの説明から、魔石を摂取しろということだったので、それをしたかった。

 ただ、摂取と言ってもどういう風にやるのか謎だ。

 一番分かりやすいのは、食う、であろうから、出来るか尋ねてみたのだが、それを聞いた霙は、


「キュッ!」


 と頷いて、俺が手に持った魔石を奪い取り、そのままバリバリと食い出したのだった。

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