第465話 一般的な補助術

「本当ですよ。でも、そんなにおかしいんですか? 正直……あんまり高ランクの冒険者の補助術系を見たことがなくて、その辺の感覚がよくわからないんですよね……」


 何も隠す必要がないため、正直に思ったことを告げると、賀東さんがじっと俺を見つめてきてから言う。


「……マジで冗談じゃねぇみたいだな……おい、恵」


 そう言って副長の世良さんに水を向けると、世良さんが話出す。


「……はい。天沢さん、さっきうちの賀東が言っていましたけど、普通、補助術と言ったら三人程度が限界と言われているんですよ。これは、たとえ高ランクになったとしても、です。補助術は技量が上げにくいので、今確認されてる最高ランクでもB級しかいないんですが……それでも、三人までですよ。D級以下だと、二人かけられれば優秀です。そしてそれでも、一人にかける場合とは強化率が大きく低下するとも」


「……でもそれじゃあ、あまり使えないのでは……」


「それがそんなこともないんです。ほんのわずか、五パーセントほどでも実力が上がれば倒せる、という場合は結構ありますからね。そしてそれを繰り返して実力を上げていけば……非常に効率的に経験が積めるので、補助術士は引っ張りだこの存在ですよ。その程度でも・・・・・・です。それなのに天沢さんは……」


 これは意外な話だった。

 まぁ、補助術士なんて、確かに滅多にみない。

 たまに低ランクにいることはいるのだが、強化率は低い。

 手足に限るとか、そういうやり方で強化率を高めているようなのはみたことがあるが、あれは工夫というより、そうしないと目に見えるほどの強化を施せないということだったのかな。

 しかしそうなると……。


「……俺が補助術をかけると、だいぶ感覚が変わってしまうと思うんですが……それだとまずかったりしますかね?」


 低ランクの補助術士だと、頑張っても五パーセント程度かも知れないが、強力な補助術士は五割程度までならいけるとは一応言われている。

 だからそういう術士もいるはずだ。

 だけど、俺の補助術は五割じゃ済まない。

 倍くらいに出来るし、時間を区切れば三倍程度にも出来る。

 使いすぎると筋肉の断裂とかが酷くなって、次の日立てない、みたいな状態になることも確認済みなので、いつでも使っていいというものでもないが……。

 まぁ治癒術をかければ回復するので今日は気にしなくてもいいはずだ。

 治癒術を使わないで自然回復に任せた方が筋肉は増強するのも分かっているので、痛くても耐える方が将来のためにはなるが、今日明日にも迷宮に、という今回の場合はそれは誰もやらないだろう。

 そんなことを考える俺に、この場の面々は皆考えたように黙り込み、それから、相良さんが言う。


「……どの程度変わるか、かけてみてもらわないと何とも言えませんからね。とりあえず、私が実験台になりますよ。いえ、信じてないというわけじゃないんですが……」


 とにかく自分が命を張る、と言っている相良さんがその役割を率先して受けるのは理解できた。

 そしてそれに続けて、


「じゃあ、相手は私が勤めます。いいですか?」


 と雹菜が言った。

 彼女は普段から普通にかけられた状態に慣れているからな。

 当然の立候補だ。


「もちろん、構いませんよ……しかし、そういうことなら、自惚れではありませんが、A級とB級で実力差が出てしまいますから……白宮さんにまず補助術をかけていただいて、その状態で普通の状態の私とまず戦っていただく感じではどうでしょう?」


「私としてはそれで構いませんが……」


「何か不満が?」


「いえ、私が勝ってしまいますけど、いいでしょうか?」


 煽るような雹菜の発言に、相良さんは笑い、


「はっはっは。それが出来るなら、ぜひ。しかし甘く見ると怪我をしますよ?」


「では、そのように」


 そういうことになったのだった。

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