第464話 人数
「創については。近接戦闘能力は私と十分打ち合えるレベルにあるくらいですから、そう言う意味でのお荷物感はあまりないかと思います」
雹菜が世良さんにそう言う。
彼女は意外そうに目を見開き、
「……本当ですか!? B級の中でも上位……というかほぼA級と言われる雹菜さんと、まともに打ち合えるなんて……」
そう言った。
確かに信じられない話だろうな。
E級がB級と打ち合えるなんて、まずあり得ない話だからだ。
もちろん、低級でも実力者というのはいる。
それでもE級なんてのはさっさと通り過ぎて、最低でもD級くらいには上がってしまうものだ。
うちのギルドで言うと、愼と美佳がまさにそうだろう。
冒険者になって一年を過ぎてもなお、E級に留まっている、となるとやはり実力はその級相当だと見るのが基本的に正しい。
けれど、雹菜は言うのだ。
「本当ですよ。瞬間的でいいなら、私よりも速くなることも可能なので……まぁ、級は確かに。詐欺ですね」
「それが事実なら、本当に級詐欺ですね……」
「後でそれを実感していただけると思います。まぁ、攻略前にお互い怪我をするわけにはいかないですから、軽く、というところで勘弁して貰いたいですが」
「それは勿論です……あぁ、そろそろ二人の戦いも終わりそうですね」
世良さんがそう言って視線をドーム中央に向けた。
するとそこでは、賀東さんの振るった大刀の切っ先が、相良さんに突きつけられていた。
相良さんがそれを見てため息をつき、しかし満足そうな笑みを浮かべる。
そしてその瞬間、ステージを覆っていた結界が剥がれていった。
決着、ということだろう。
それから二人はこちらに向かって歩いてきた。
賀東さんが俺たちを見て、手をあげて笑顔でやってくる。
「おう! 二人とも、来たか! 悪いな、先に始めちまってて」
まず謝罪から入ったが、そんなことは誰も気にしてない。
「別に構わないわ。それより、どうしてまた二人で模擬戦を?」
雹菜が尋ねると、賀東さんは言う。
「大智には以前の戦い方を思い出して貰いたくてな。今回の攻略は、少数精鋭だ。命を捨てるようなやり方を一人でもされると、そこで詰んじまうからよ」
これに相良さんが、
「……荒療治にも程がありますが……まぁ、理解しました。他の二人にも言い聞かせましょう。そして、それでもいざというときがありましたら、その時捨てるべきは私の命です」
そう言ったので賀東さんはため息をついて言う。
「……まぁ、そこまでは止めねぇよ。常にそういうやり方をしようとしない限りはな。冒険者は自由だ。で、雹菜、それに創。さっそくだが、お前らの秘密、見せてくれるって事で良いんだな?」
すでに契約はなされているのに、あえて最後に確認してくれる辺り、賀東さんの優しさが見える。
これにまず雹菜が頷いて、
「ええ。ここにいる面々になら、見せても良いと思うから。創は……?」
「俺も良いと思ってる……でも、まずどういうやり方にします? もうはっきり言ってしまいますけど、俺が出来るのは補助術です。それも今までのものとは大きく強化率の異なる。ここにいる全員にかけてもいいんですが……それだとわかりにくいですかね?」
ここではいつものように、自重する必要がないので単刀直入に言った。
すると意外なことに全員が目を見開く。
そして黙り込んだ全員を代表してか、賀東さんが言ってくる。
「……おい、それって一度に全員に補助術かけられるってことか? マジで?」
「……そうですけど、おかしいですか?」」
「極めつけにおかしいだろ! 補助術はその制御に多大なる集中を要する。一人がかけられるのは、頑張っても三人までだ。それを……六人まとめて? いやいや……冗談だろ?」
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