第466話 持続時間

「……あー、じゃあ話がまとまったところで……どうする? 先にかけておくか? 俺が近くにいると、二人とも思いっきり戦えないだろ?」


 俺がそう言うと、みんなの視線が俺に集まった。

 ちょっと怖い。

 俺よりも遙かに上位の冒険者達に、一斉に視線を向けられれるのは何とも言えず恐ろしい。

 だが、何も言わないわけにもいかず、俺はとりあえず、みんなに向けて言う。


「……いや、あの。ほら……二人が戦うなら、さっきの結界張ったステージ内で戦うわけじゃないですか。でも補助術使う俺が近くにいるとか、邪魔でしょ? だから、先にかけておけば、そういう面倒なこと無いかと思って……」


 しかし、これに賀東さんが、まず言う。


「……創の言うことはまぁ、最もなんだが……補助術かけたら解けるだろ? そしたら一々、中断してかける羽目になるんじゃねぇのか?」


「うぇ? いや、そんなことはないですよ。三十分、一時間なら一回かければ普通に持続させられますし……あぁ、でもA級B級同士の戦いなら、もっと時間かかるんですかね……? 前に見た、賀東さんと雹菜の戦いだと三十分もかからなかったと思うんですが……」


 高ランク同士の戦闘、というのは滅多に見られるものではない。

 B級以上は通常のドームなんかで戦うと、観客に余波による衝撃波が吹っ飛んだりして、危険だからな。

 撮影しても機材がぶっ壊れたりする。

 だからテレビで見られるようなのは、C級以下の冒険者の戦闘ばかりだ。

 それこそたまに、会場だけで見られるB級以上の模擬戦もあるけど、見ようと思ってもプレミアチケットでまず取れないものだからな。

 俺も、賀東さんと雹菜のあれ以外には全く見られていなかったので、あの時のあれが基本なのだろうという感覚でいる。。

 しかし、賀東さんは言うのだ。

 

「お前なぁ……模擬戦なんて、普通三十分もかからねぇよ。だが、補助術の持続時間ってのは……一般的に五分持てば良い方だ。それをお前は……」


「……あー、なるほど?」


 流石に俺もおかしいことをまた言ってしまったのだな、といいうことには気づいてそう返答する。

 そんな俺に賀東さんは呆れたように、


「……まぁでも、お前がしっかり補助術を雹菜にかけられるってんなら、それでいいのは確かだ。じゃあ事前に雹菜に補助術かけてやるってことでいいか? 色々聞きたいことはこの場にいる全員の頭に浮かんでるだろうが、とりあえず実際の効果を見てからの方がいいだろうしな」


 と上手くまとめて言ってくれる。

 これには全員が頷いて、納得した。

 それから、俺は雹菜に、


「……うーん、とは言うものの、何かける?」


 そう訪ねた。

 補助術……正確には《マグスガルド陣術》については、色々と研究していて、ステータス上昇率とか持続時間とかについてはかなり調整が利くようになっていた。

 術についても名前が無いと、お互いの認識や指示に困ることがあるだろうからと、一定のものについては名前など決めているくらいだ。

 雹菜はもちろん、それについて全部理解していて、だから俺に言った。


「……主に《脚力強化Ⅰ》と《氷属性強化Ⅱ》をかけてほしいわね。他は……この二つが減少するようなら、かけなくてもいいわ」


「構わないけど、《腕力強化Ⅰ》とかはいいのか? A級なんだから、その辺結構なものなんじゃ」


「相良さんは腕力より速力で戦う人だからね。もちろん、A級に見合った腕力はあるけど、防御力が極端に高いわけでもないし。私なら今言った二つが最適だと思う」


「そういうことなら、分かった。じゃあ、かけるな」

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