第135話 樹の所属

「へぇー、創ってあの雹奈はくなさんがリーダーを務めるギルドのメンバーなんだ! すごいね!」」


 むしゃむしゃとコンビニで買ったと思しきパンを野卑に貪りながら、樹がそう言った。

 俺は俺でおにぎりを食べていて……まぁ、先ほど約束した通り、昼食を共にしているのだった。


「俺がすごいわけじゃないけどな……樹は? どこのギルドなんだ?」


 俺の方はある程度の情報を話したので、今度はお前の番とばかりに尋ねる。

 これに樹は少し悩んだ顔で、


「あー……僕はね、ちょっと……」


 と口籠ったので、まずいことを聞いたかもしれない、と思った俺は、


「あっ、いや。話しにくい事情があるならいいんだ。色々あるもんだからな……」


 俺は俺で《オリジン》やら《天沢流魔術》の話なんてまるで出来ない。

 だから本気でそう言った。

 そんな俺に、何か感じるところがあったのかもしれない。

 樹はそこからも少しだけ悩んだ顔をしたが、その後、


「……内緒にしてくれる?」


 と言ってきた。

 俺は頷いて、


「これでも俺はそこそこ口は硬い方だぞ。黙ってろって言われたら、大抵のことは黙ってる」


「大抵って、そこはどんなことでもって言わないと」


 苦笑しながらそう言った樹に俺は笑い、


「違いないな」


 と答えた。

 

「まぁ、絶対に言わないって言う人よりは信用できるかな? 僕だってそこまで秘密主義ってわけじゃないし。あのね……」


 そう言ってから、樹は俺の耳元に口を寄せ、言った。


「僕、治癒術師なんだ。ギルドは……《光の伽藍》に居候させてもらってて……だからあんまりしっかりした冒険者じゃないんだよ」


 驚いて俺は樹の顔を見た。

 彼は微妙な表情で微笑んでいて、俺はそんな彼に向かって口をひらこうとしたが、


「……ではそろそろ次の試験の開始時間になります! 着席してください!」


 と試験官が入ってくる。

 樹は、


「あっと、もうお昼ご飯終わりか。じゃあ、創、最後の科目、がんばろうね」


 と言って片付けて立ち上がる。

 そんな彼に俺は、


「……あぁ。樹、筆記終わったら、ちょっと時間あるか?」


 と言うと、樹は不思議そうな顔で、


「いいの? 僕は……」


「いいさ。っていうか、お前こそいいのか?」


「僕は全然。じゃ、また!」


「おう!」


 *****


 《光の伽藍》。

 これはかなり有名なギルドの一つだが、他の多くのギルドとは異なり、かなり特殊な存在として知られている。

 かのギルドが掲げる理念のゆえだ。

 それは《治癒術師の保護》である。

 世に知られている通り、治癒術師というのは冒険者の中でもかなり数が少なく、貴重だ。

 それが故に、どんなギルドやパーティーからも勧誘がひっきりなしにくるわけだが、それが故に揉め事も多くなる。

 要は無理矢理パーティーに所属させらたりすることが少なくないのだ。

 それだけで済むならまだいいが、そんなギルドやパーティーで酷使された結果、心を壊してしまい、二度と冒険者としても、人としても、社会復帰が難しくなることもある。

 そういう時に駆け込み寺として機能しているのが《光の伽藍》だった。

 そこに治癒術師がいればそれこそ大量の冒険者が押しかけてきそうだが《光の伽藍》のギルドリーダーはA級冒険者である。

 そんな者から、治癒術師を無理矢理奪うような真似など出来る存在などいるはずもなく、またそういうことをしようとした人間は全員が粛清されているが故に、《光の伽藍》に所属する治癒術師にはなんというか、腫物に触るような視線が向けられることも多いのだった。

 樹は見る限り、心に深い傷を抱えている、という感じではないように見えたから、所属しているのは不思議だが……居候、と言っていたから、あくまで一時的に利用している感じなのだろうか?

 分からないが、誘いに乗ってくれたことから、色々聞けることもあるだろう。

 誘った理由だが、できることなら仲良くなって、うちのギルドに……とかいう下心はあまりない。

 治癒術師ってどんなもんか聞いてみたいんだよな。

 それに加えて、さっきの試験の出来栄えとか、これからのこととか話したかった。

 ぼっちで試験は、ちょっと寂しいというか。

 まぁ、試験ってそういうものだとはわかってるけど。

 そんなことを考えながら、試験後、会場からしばらく離れた位置にあるカフェで待っていると、樹が向こうからやってきた。


「創!」


 別にここで待ち合わせせずとも、一緒に来ればよかったのだろうが、話が話だ。

 あまりあそこにいる人間に聞かせたくないからこその、ちょっとした用心だった。

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