第136話 カフェにて

「……それで、話があるんだよね?」


 樹は着席し、飲み物を頼むと単刀直入にそう尋ねてきた。

 その様子には、少しばかりの警戒が感じられる。

 多分、こんな経験を何度もしてきたのだろう、という感じだ。

 なるほど《光の伽藍》に所属するだけの理由は、やっぱりあるのかもしれない。

 しかし、俺はそのために彼を誘ったわけではないから、素直に言った。


「あぁ……さっきの試験なんだけどさ、どうだった? 俺、迷宮学とかスキル学とかはなんとかなったんだけど、関連法規だけ怪しくて……結構、改正激しいだろ? 特に最近は《転職の塔》関連でさ……」


 つまりは、試験の出来栄えについて話したわけだが、これに樹は少し驚いたように目を見開いていて、


「……君って意外な人だね」


 と言ってくる。


「何が? って言いたいところだが、まぁ分かるよ。俺がお前をギルドとかパーティーに誘うために呼んだって思ってたんだろ?」


「……うん。まぁ、正直。他に僕を誘う理由なんて……」


「ないことないだろ。今回の試験、樹がいなかったら俺は一人で昼飯食ってたんだからな? ひとりぼっちは辛いぞ……。特にああいう場所では……」


 大袈裟に肩を抱きながらそう言うと、樹は笑って、


「……経験が?」


「中学の時にな。まぁちょっと荒れてて。友達もいたんだけど、そいつらすら拒否ってた時期が……で一人で飯をモソモソ食べてた。自分で選んだ割に、虚しい時間だった……」


「そんなタイプには見えないんだけどな?」


「一年だけだからな。すぐに正気に戻ったよ。でも一人の辛さを知るには十分だったぞ。だからこそ、それを救ってくれた樹には感謝だ」


「大袈裟な……でも、分かったよ。そういうことならこれからも……って、明日には実技試験になるから、一緒にいられるかなんて分かんないんだけどね」


「あぁ、そうだよな。一応、今までの実技試験については調べて対策は色々考えてるけど、統一性ないからなぁ……」


「まぁ、一応、《迷宮で何かをする》っていうのは共通してるかな……いや、対人戦闘を課された年もあったみたいだし、それも微妙か」


 試験官と戦う、とか受験者同士で戦う、とかそんな年もあったらしい。

 ただ、これはかなり昔の、冒険者という職業が社会的に確立する前のことで、今では滅多にないから多分、考えなくてもいいはずだ。


「そうなったら素直に戦うしかないから、それは考えないでいいさ。それより、ソロかパーティーかだな」


「ソロの場合は協力して、なんていうのはなかなか難しいかもね。同一の魔物を指定されてたり、アイテムとか素材もそんな風に指定されて、持ってくること、みたいなのはよくあるから。パーティーだと……任意に組めるものなら一緒に組めるかも」


 これはパーティーで迷宮に潜って何かをしてこい、というパターンの話だな。

 そういう時は、試験委員会の方で勝手に組み合わせを決める場合もあるが、そうではなく、その場で即席のパーティーを任意で作るように、と言われることもある。

 そういう技能というかコミュ力も含めて冒険者に必要だから、という理由からのようだ。

 確かに冒険者というのは迷宮の中で突発的に協力関係になったり、または反対に敵対したりすることも多い。

 そういった場合を念頭においての試験ということだ。


「いいのか? 俺と組んでくれても」


「構わないよ。それに、それはこっちのセリフさ。僕は治癒術師だ……つまり、正直あんまり腕っ節の方は期待されても困るんだよね。それなりにステータスの恩恵はあるし、治癒系だけではないから全然戦えないってわけじゃないけど」


「戦闘に関しては、俺は結構やれる方だと思ってる。自惚れてるつもりはないんだけどさ……」


 F級冒険者のこういう物言いは、大体自惚れと思われてしまうからこそのセリフだった。

 しかし樹は首を横に振って、


「創はあんまりそういう、自分を大きく見せるってタイプでもなさそうだし、単純に自信があるんだと思っておくよ。じゃあ、僕は補助に徹する感じでもいいのかな?」


「あぁ。戦ってくれてももちろんいいけど……まぁ、全ては試験がパーティー組めるようなものだったら、の話だけどな。ソロで同じ獲物相手とかだったら、俺は容赦しないぜ」


「それは僕もそうさ」

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