第137話 家にて

「……明日の集合場所は、三鷹? また意外な……」


 家に戻り、メールのアカウントを確認すると、そんなメールが届いていた。

 勿論それは試験委員会からのもので、明日の実技試験の集合場所を書いたものだ。

 集合場所という重要な情報が、なんで前日に通知されるのかといえば、どんな試験になるのかギリギリまで教えられることがないからだ。

 他の試験ならともかく、冒険者の昇級試験というのは、冗談でなく命がかかっている。

 前日よりも前に分かっていれば、他の受験者を蹴落として自らの合格率を上げようとして、目的の場所に罠を仕掛けたりする人間が出ないとも限らない。

 だからこそ、ぎりぎりに伝えられる訳だ。

 まぁ極論を言ってしまえば、たとえ前日であっても何かやろうと思えば出来てしまうだろうが、流石に通知自体を当日にというわけにもいかないだろうしな……。

 ただ一応、直接目的の場所に、という感じではなく、あくまでも三鷹駅前集合ということになっていて、そこからは試験委員会が用意する移動バスに乗って目的地まで行くことになるようだから、正確に伝えられるのは当日ではある。

 用心に用心を重ねているのが分かる。

 ちなみに、三鷹も新宿や東京などの例に漏れず、いくつもの迷宮が確認されていて、そのうちのどれかが試験会場になるのだろうと思う。

 つまり、今回の試験は、冒険者同士が戦え、というタイプではなさそうだ。

 まぁ試験が行われる予定の迷宮は、この時点ではまだ、どこになるかは分からないが。


「三鷹? へぇ。三鷹にある迷宮はどこも癖の強いのが多いから、大変かもね」


 雹菜がリビングで雑誌をパラパラと読みながら、そう言った。

 家に戻った、と言ってもその家は正確には雹菜の家であって俺の家ではない。

 ただ俺の部屋まであるから……。

 まぁそれはいいか。


「癖?」


「そうね……属性的な偏りがあったり、出現する魔物が搦手使って来るタイプ……麻痺とか毒とかかけてくるようなのが多かったりするのよね。創も勉強したとは思うけど」


「大雑把にはな……確かにそうだった。でも、そんな迷宮を試験に採用するってどうなんだよ?」


 通常の迷宮と比べて、麻痺や毒に罹ったら死ぬ可能性が高くなる。

 まぁ、冒険者稼業はいつ死ぬとも限らないのは常にそうだから、今更な話かもしれないが、あえて試験でそんなところを採用しなくとも、と思ってしまう。

 そんなことを考えた俺に雹菜は、


「まぁたまには捻りたい年もあるってことじゃない? ちょっと厳しい感はあるけど。ただやることはやっぱり例年通りでしょうから、大幅に危険度が増す、ということもないわ。監視もちゃんといるはずだしね」


「っていうと、試験内容は、やっぱり素材採取とか討伐とかの可能性が高いか」


「でしょうね。ま、頑張って。トップ合格してくれるといい宣伝になってギルドとしても嬉しいわ」


 冒険者の昇級試験は、順位が発表される。

 B級まではそうで、それより上になってくると、秘匿されることも増えるけれど。

 ちなみに、俺はふと気になって尋ねる。


「……雹菜が受けた時はどうだったんだ?」


 彼女もまた、昇級試験を受け続けてそのランクまで辿り着いたはずだ。

 そこに特別扱いはない。

 雹菜はこの質問になんでもないような顔で、


「私はB 級までずっとトップ合格だけど?」


 と答えた。

 あぁ、と俺は思って言った。


「……天才はこれだから……」


「いやいや、ステータスだけ見ると、当時の私より今の創の方が間違いなく上だからね? むしろトップでいけない方がおかしいわよ」


 当時はステータス、なんてものはなかったが、大体ステータス上の数値がいくらだと、どのくらいの力が発揮できるのかについては今は肌感覚で分かる。

 その上で、当時の自分のステータスを推測してのセリフだろう。


「試験内容によるだろ……」


「大丈夫よ。創の悪いくせね、その自信のないところ。今回トップでいけたら、もっと自信持ちなさいよ?」


「……はぁ。わかったよ。頑張ってみる……」

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