第134話 筆記試験
「……では、はじめ!」
東京、品川区にある、とある貸し会議室会社のビルの一室にそんな声が響いた。
それと同時に一斉に筆記用具を取り、手元の用紙をめくって目を皿にして書いてある文章を読み始める大勢の若者……とは限らないか。
確かに若者が多いが、年齢層は様々で、この試験が通常の資格試験とは色々と異なる色彩を持つものであることを教えてくる。
俺、天沢創は、そんな試験の受験生の一人として、彼らと同様に試験問題に取り組んでいた。
科目は全部で五教科。
迷宮学、魔物学、スキル学、関連法規と、一般常識だ。
いずれも俺は学校で学んできた内容で、さほどの難しさは感じられない。
所詮はE級昇格試験……と、舐めていると落ちる程度の難易度ではあるので、甘く見てはいられないのだが。
おおむね、ゼロから学ぶなら百時間程度の勉強でなんとかなる、確実性を求めるなら二百から三百時間の勉強が必要、と言われるくらいだな。
まぁ、それでも大丈夫だとは思うが……落ちたらギルドリーダーである雹奈に、そして慎にも美佳にも顔向けが出来ない。
何せ、俺たちのギルドで最も弱いと見られてしまうランクなのが俺だからな。
実際の戦闘能力については、すでに俺は慎や美佳と十分にやりあえるくらいにはなっているし、アーツを遠慮なく使えばむしろ勝てるくらいだが、ギルドのサイトを見てそう思う人間というのは少数派だ。
宣伝になるほどのランク……まぁ、C級からがそうだと言われるが、そこまでに至るにはまだまだ遠いにしても、最低でも初心者を抜けたと言われるE級くらいにはならなければ話にならない。
F級はどこでも新人、初心者、みそっかす扱いだから……。
そんなことを考えつつ、一つひとつ問題を解いていくと、
「……やめ! では答案用紙を回収します。次の科目は二十分の休憩を挟んだ後、行うのでそれまでにトイレなどは済ませておくように」
いつの間にか最初の科目の試験時間である一時間半は過ぎていたのだった。
******
「一問目からあれってひどくないか? 誰が知ってるんだよ……」「あれはあからさまな引っ掛けだろ。それよりも途中の筆記がさ……」
休憩時間は、そんな話ごえがガヤガヤとそこら中で行われていた。
同じ学校出身とか、ギルドの同僚とか、そういう者たちも少なくなく、だからこそ、答え合わせにと話し込んでいるのだ。
俺はといえば、見た顔は周囲にはいない。
一応、俺も今年卒業した同級生がそれなりの数、いるはずなのだが、会場の振り分けが悪かったのかも。
それに、ギルドの同僚については、俺は同じ級のやつなんて一人もいないからな……。
残念ながら、ぼっちにならざるを得ない。
そんなことを思いつつ、机に突っ伏しかけた……しかし、
「……あっ、もしかして君、一人?」
と話しかけられる。
机に落ちかけた視線を前に向けると、そこには一人の少年が立っていた。
サラサラとした髪の童顔の少年で、どことなく育ちが良さそうに見える。
当然、同じ受験生であり、この年齢ということは学校卒業後すぐに受けた組だろうから、同い年だろうな……そう思った俺は、
「あぁ、顔見知りがいなくてな。ぼっちだよ」
とタメ口で答えた。
「やっぱり! 僕も同じだよ……急で申し訳ないんだけどさ、今日、次の時間が終わったら一緒に昼でも食べない? 流石に一人でモサモサ食べてるの、気まずくて」
「そりゃありがたい。俺もその時のことを考えて少し不安だったよ……俺は天沢創。お前は?」
「僕は
やっぱり、俺の予想は正しかったようだ。
俺は頷いて、
「あぁ、俺も同い年だ。ってことで、
「分かった、創」
樹がそう言って頷いたあたりで、
「……ではそろそろ皆さん、着席してください……」
と試験官が部屋に入ってきて言ったので、樹が慌てて、
「おっと、もう二十分経ったみたい。じゃあ、創! 後でね!」
そう言って席に戻って行ったので、俺は頷いて、
「あぁ! また!」
と手を振ったのだった。
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