第535話 俺たちの方針

「北海道魔境調査については……」


 ふと気になって俺が尋ねると、賀東さんが言う。


「それに向けて、ここで修行ってこったな。元々はそのための上級職解放を目指してたんだ。だがあれもこれもと欲張りすぎると思ってもみなかった危険に見舞われるかも知れない。それを考えると、ここで少し、底上げを図った方が良さそうだってな」


 この場合の底上げとは、A級たちの、というよりもそれ意外の冒険者達のことだろう。

 魔境調査には多くの冒険者が参加する予定だが、最低でもD級からとされている。

 C級D級は実力のばらつきも大きく、また強力な魔物に対してやはり無力だ。

 それはステータス不足も勿論あるが、経験不足やスキルや術の数が不十分であることもある。

 そして最後の二つについては、ここで解決できる可能性がある。

 

 賀東さんの後を継いで、相良さんも言う。


「野良の、というかその辺のフィールドに出現する《虫の魔物》も倒すと結構美味しいことも分かってきたんですよ」


「っていうと?」


 雹菜はくながそう尋ねると、相良さんは答える。


「数体倒せば、ステータスがそこそこ上がるようです。もちろん我々A級やB級ともなるとそうもいかないですが、C級D級にとっては促成栽培的な成長が望めます。ただステータスだけ上げるだけだと、いざというときに失敗しやすくなるので、その辺を誰かが見てやる必要があるでしょうが、今の《転職の塔》にはその攻略のため、こうしてA級B級がそれなりの数いますからね。我々以外にも、B級でしたら何人かいますし」


「なるほど……色々と説明ありがとう。分かったわ。じゃあとりあえずこのパーティーは解散というか、一時休止?」


 これには賀東さんが答える。


「少しの間な。メインイベントを進める段には再招集するつもりだが、しばらくは分かれてここで頑張ろうぜ。お前らのところもギルドメンバーを連れてって、実力を上げてやれ。うちらも、他のギルドもそのつもりだからな」


「分かったわ」


 そして、賀東さんたちが去って行ってから、俺と雹菜は話す。


「ってわけで……どうする? 一回戻る?」


 雹菜がそう言ってきたので、俺は少し考えてから答える。


「うーん……戻っても、今日はみんなそれぞれ依頼を受けてるだろう。連れてくるにしても明日以降でいいんじゃないか?」


「それはそうね……じゃあ、先んじて色々調べておくのはどうかしら?」


「ゲッコー王国で受けられる《サブイベント》についてか?」


「そうそう。あと店で売ってるものとかも調べておきたいし。出来ればサブイベントも、いくつか実際に受けてみたいわね。《虫の魔物》の危険性についてもある程度感覚掴んでおきたいし……そうじゃないと皆を連れてくるのは怖いわ」


「確かにそれはあるな……じゃあとりあえずそういう方針で、まずゲッコー王国に飛ぶか」


「ええ」


 二人だけで行くというのは少し不安な気がしないでもないが、雹菜の実力はA級クラスだし、俺の補助術もある。

 それに《サブイベント》については危険なものはそこまで発見されていないようなことを賀東さん達が言っていたので、そこまで心配する必要はないだろう。

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