第534話 これからの方針

「でもそういうことなら、ゲッコー王国は種族が蜥蜴人の人が有利というか、そういう人が成長しやすいところ、ということになるわね」


 雹菜はくなが唇に指を当てながらそう言うと、賀東さんも頷いた。


「おそらくはな。ただ、他の奴がらが全く成長できない、というわけじゃない。さっきも言ったようにスキル書術書の類は存在している。それに、種族固有のスキルみたいなのじゃないスキルを身につけられるイベントもある。まだほとんど見つかってはいなが……」


「えっ、それってどんなの?」


「……今見つかってるのは、街の主婦の掃除の手伝いをしたら得られる《掃除》スキルだけだな……」


「《掃除》……いえ、でも、手伝っただけでもらえるというのならそれは結構なものよね。普通それを身につけるには、それなりに掃除を沢山してないと条件を満たさないことが多いし」


 賀東さんの話を聞いて一瞬微妙そうな表情をした雹菜だったが、すぐにメリットを見つけて頷いた。

 確かにそうなんだよな。

 俺も昔は頑張っていたからよくわかっているが、スキルや術には何かしらの取得条件がある。

 そしてそれを満たすと、身につけられることがある。

 ことがある、とは身につけられない場合も沢山あるってことだ。

 そういうことを、適性がなかった、とか才能がなかった、とか言う。

 適性や才能があると、条件を満たせば身につけられるし、場合によっては条件を完全に満たさずに八割くらいだけでも満たせば身につけられることもある。

 この辺りのスキル取得条件についてはかなり幅がある上、確定的な条件はまだはっきりしていないので確かなことは研究者であっても言えない部分だ。

 そんな状況で、ただの手伝い程度で確実に何かしらのスキルを身につけられる、というのは相当なメリットであるのは確かである。

 ちなみに《掃除》スキルというのは、戦闘で役に立たないのは言わずもがなだが、日常生活では死ぬほど役に立つ。

 練度が低い時──《最下級掃除》しか持ってない時は狭い範囲の埃を全部取り払う、とかに過ぎないが、極めれば一度使うだけで建物一棟分全ての掃除を完了させられたりもするのだから。

 それだけで飯が食っていける。

 とはいえ、そこまでの練度に至っている人は滅多にいないけどな。

 というか、そこまで至ってる人は、アーツ化している。

 やっぱりアーツが、人類が強くなるのには非常に大きな鍵を握っているのだなとそういう事例でも意識せざるを得ないところだ。

 それでもアーツを取れている人はやはり少なく、まだまだ試行錯誤の最中なのだが。


「ま、そういうことだな。だからちょっと今、考え方を変えてるところだ」


 ふと、賀東さんが言う。


「どういうこと?」


 と雹菜が尋ねると、

 賀東さんに続けて相良さんが、


「もともと、《転職の塔》を攻略してさらに上位職業へ転職できることを目指そうとしていましたが、ここで自力を底上げするという選択肢も出てきたということです。メインイベントをクリアして《虫の魔物》を倒さない限り、次へはおそらく進めないことが推測されますが、《虫の魔物》はそれなりに強い。少なくとも、ある程度の数の冒険者がいなければ対抗できないと思うのです」


「確かに……ほぼ戦争みたいな状況だしね。私たちだけでどうこうする、というより多くの冒険者がここでそれなりの実力を身につけてから、メインイベントを進行する方向がいいのかも?」


「そういうことです」

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