第533話 師匠

「……イベントそのものでスキルや術が? って一体どういうこと?」


 雹菜はくなが驚いてそう尋ねると、賀東さんは言った。


「これについては俺が発見したんだが……」


「えっ、賀東さんがですか」


 俺が目を見開くと、彼は笑って言う。


「あぁ。多分、俺だから見つけられたんだと思うぜ。っていうのもな……」


 そして賀東さんは語り出した。

 と言っても、内容自体は大それたものではない。

 街中を歩いていたら突然、おかしな蜥蜴人族に話しかけられ、お前なら自分の技を受け継げる、とか言われたらしいのだ。


「受け継げるって……なんですかそれ、師匠イベントってことかな?」


「師匠イベントか……その呼び名は分かりやすくていいな。よし、いただこう」


「そんな簡単に決めていいんですか」


「いいだろ。まだほとんど見つかってないし、これから呼び名に困りそうだからな。そして確かにそんな感じなんだよ。俺を呼び止めたのはなんか屈強な体の蜥蜴人でな……面白そうだと思ってついてったら、修行だと言われて色々やらされた」


「たとえばどんなのです?」


「切り立った崖を登るとか、凍えそうな場所に閉じ込められるとか、組み手とか……」


「まさに修行っぽいですね……」


「完全にそのままだったよ。一体こんなことして何の意味があるんだとすら思った。だが、成果はあったぞ」


「何かしらスキルを身につけられた……ということですね?」


「そういうことだ。俺が身につけられたのは《極小ミニマム吐息ブレス《火》》というスキルだ」


 そう言って、《ステータスプレート》を見せてくれる。

 もう賀東さん程のランクになると、個人情報なんて気にならないのか?とか一瞬思ったが、そんなこともあるまい。

 これは俺たちを信用して見せてくれているんだ。

 そして、事実ステータスプレートのスキル欄には確かに《極小ミニマム吐息ブレス《火》》の文字があった。


「これは……」


 吐息ブレス系のスキルは、竜族系の固有スキルだ。

 他の種族には滅多に確認されない。

 しかし、蜥蜴人である賀東さんも身につけられるのか……。


「な、あるだろ? で、みんなの疑問は分かる。なんで竜族じゃないのにこんなもの身につけられるんだって話だよな。俺も聞いてみたんだ、その師匠をしてくれた爺さん蜥蜴人によ。そしたら、蜥蜴人族は限界を超えた修練を経て、いずれ竜人に至ることが出来るという伝説がある、と言われた」


「……それって上位種族への種族変更や進化の可能性があるって話よね」


 雹菜がそう言った。 

 賀東さんはこれに頷いて、


「そうだと俺は思う。普通の人間からこうやって、別種族になれたみたいに、さらに上があるのは分かりやすいが、この世界?この国の人間の認識もそうみたいだな」


「そしてだからこそ、竜族が身につけるスキルも獲得できる可能性があると……って、ことはそのイベントは蜥蜴人じゃないと起こらない?」


「鋭いな。他の奴らにもそういう話が来ないか、うろつかせてみたが駄目だった。だが、蜥蜴人系の種族になってる奴で、それなりの強さの奴には似たようなイベントが起こったらしい」

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