第536話 王都の変化

 《転職の塔》、《初期職転職の間)に存在する像に雹菜はくなと共に触れる。

 選ぶ転移先は《ゲッコー王国王都ナビヘカ》だ。

 もう一つ、《ゲッコー王国ルガー神殿》という転移先もあるにはあるが、こちらに飛んでも結局目指すはナビヘカなので時間の無駄になる。

 《虫の魔物》を狩りに出かけたり、ルガー神殿の方が近い場所に向かう時にはルガー神殿を選んだ方がいいとは思うけど、それは今ではない。


 転移すると同時に、白い光に包まれて、そして周囲の景色が見えてくる。

 

「……着いたな」


 俺がそう呟くと、数秒してから雹菜も飛んできた。

 本当に一瞬で現れる、という感じで客観的に見るとなんというかすごい光景だなと思う。

 ちなみに、ナビヘカの市民たちもその光景を目にしているはずなのだが、特に不思議そうな視線を向ける様子はなかった。

 慣れているから?

 いや、そういう感じじゃないな。

 むしろ、見えていないという感じを受ける。

 

「あ、創。創の方が少し早かったみたいね」


 雹菜がそう言ったので俺は頷く。


「あぁ。手を繋いだり、一部分触れて行けば同時に転移できるらしいけど、それぞれでやるとやっぱりそれぞれのタイミングになるっぽいな」


「まぁドアの出入りをするみたいな感じでしょうし、そんなものでしょうね……それにしても、賑わっているわね。前に私たちが来たときよりも人が増えてない?」


「そうか? ……言われてみるとそうかも」


 周囲を見渡してみると、結構な数の蜥蜴人たちが大通りを行き交っている。

 前に来た時は閑散としていたとまでは言わないものの、ここまで人は多くなかった。


「なんでだろう? 曜日とかの関係か?」


「確かに今日は日曜日だけど、それってゲッコー王国の人に関係あるとは思えないわね……」


「そりゃそうか。地球人の曜日とかは蜥蜴人には無関係だよな……だったらどうして」


「うーん……他に変わったところと言えば、冒険者もそれなりに見るわね。もちろん、そこまで大勢ってわけじゃないけど、ちょこちょこいるじゃない。その影響とかはどう?」


 確かに、冒険者がいるのは先ほどから目に入っていた。

 もちろん、この世界?というかこの国の固有の冒険者、ではなくしっかりと地球人の冒険者である。

 彼らが街中を歩き回り、また蜥蜴人たちに色々と話しかけていた。

 目的はもちろん、サブイベントにあるだろう。

 それ以外にも、単純な情報収集とかもだな。

 ちなみに、蜥蜴人たちに対して無体なことをしないように、というのはしっかりA級冒険者たちからアナウンスされているようで、冒険者たちは皆、蜥蜴人たちに対して友好的に振る舞っているようであった。

 下手なことをしてA級冒険者に絞められたんじゃ酷いことになるのが目に見えているからな。

 抑止力として働いているわけだ。

 そんなことを考えながら、雹菜の推測についても検討してみる。


「冒険者が増えると、ナビヘカの市民の数も増える? あるのかな」


「サブイベントを受けにみんなここに来るからね。市民がくれるとしたら、それだけ人が多くないと物理的に無理にならない?」


「あぁ、なるほど……なんかシステムじみてるけど、イベント欄そのものがそういう感じだしな。おかしくはないのか」


「まだはっきりとは言えないけどね。まずサブイベント、探してみましょう。実際に一度受けてみないと、感覚が掴めないわ」


「そうだな」


 そして俺たちは街中を歩き出す。

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