第470話 どちらが優勢か

 相良さんの攻撃は激しくなっていく。

 対して、雹菜の方は意外にも防戦一方に見えた。


「……補助の出力弱かったかな……?」


 つい俺はそう呟いてしまうが、これに賀東さんは俺の肩を叩いて言った。


「──いや。一見、雹菜の方が押されてるように見えるが、実際には逆だぜ。お前の補助術の効果は間違いない」


 慰めかな?

 と一瞬思ってしまうも、そんな俺に賀東さんは、雹菜と相良さんから目を話さずに言う。


「普段なら大智はあんな無茶な攻め手はつかわねぇよ。あいつの本質は相手が気づかないところから入れる致命の一撃にあるからな」


 相手の虚をつくのが得意、ということかな。

 確かに黒づくめの見た目とか、気配を消すのが主体になる影属性を使っているあたり、まさにそれが一番適切な戦い方に思える。

 ただ……。


「でも、どの攻撃も強力無比で当たれば一発のを断続的に放ってる今のやり方も、恐ろしいように思うんですけど」


 少なくとも俺はあれを一撃でも喰らえば死ねる。

 相良さんは雹菜との超接近戦を今、行っていた。

 短剣を振るい、雹菜の細剣の間合いのさらに内側で、雹菜に武器を振るわせないように戦っている。

 俺からするといつもやっているかのように慣れている攻撃手法に見えるのだが、どうも賀東さんから見るとそうでもないらしい。


「確かに全ての攻撃が強力よ。当たれば雹菜といえどただでは済まないだろうさ。だが、あれだと大智の方も危険だからな……命を捨てるのに躊躇がないのは間違いないんだが、だからと言って無駄に捨てるほど愚かでもねぇんだよ、大智は」


「つまり……?」


「雹菜があそこから、少しでも大智を引き剥がしたら、それで大智は得意な間合いっていうアドバンテージを奪われる。普段ならそれでも問題なく対応できるんだろうが、今はそうなったらまずいと分かってるのさ。それは……」

 

 そこで賀東さんは言葉を切って俺を見つめた。

 続く言葉が想像できないはずもなく、俺は言う。


「雹菜に、俺の補助術がかかってるから?」


 これに賀東さんは深く頷いて言った。


「そういうこった。脚力と属性を強化してたよな? 確か。大智はさっき、氷の壁ぶっ壊すことで雹菜の虚をついてうまく間合いを詰めたが、あれは一回しか通用しないやり方だ。一度目は少し驚いて雹菜も一瞬足を止めちまった。でも、次はそれを勘案して動くだろう。そしてそうなったら、多分大智は追いつけない……それだけの足捌きを雹菜はしてるな」


「なるほど……」


 二人の動きは高速すぎて、足捌きも正直よくわからないところがある。

 見えなくはないのだが、どういう意図なのかが俺には分からない。

 これは純粋に経験不足ゆえだろう。

 ステータスというわかりやすい数値があっても、その上下だけで勝敗が確実に決まるとは言えない理由がそれだ。

 ベテランの経験は、ただのステータスに勝る

 けれどあまりにもステータス差があれば、力押しで負かされてしまうことも多いからなんとも言えないところだが。

 今の雹菜や相良さんについては、俺は自分に補助術を掛ければステータス上の差はそこまでなくなるかもしれないが、それでも、勝てるとは思えなかった。

 雹菜については癖がわかってるから、普通に訓練する分にはそこそこいい勝負が出来るのだが、本気でやれば俺はまだまだってわけだな。

 高位冒険者の実力は遠い……。

 そんなことを考えていると、賀東さんは言う。


「……だが、そろそろってところかな」


「え?」


 首を傾げる俺に、賀東さんは、


「やっぱり慣れない戦い方だとスタミナに問題が出るんだよ。大智にだいぶ疲れが出てる。あと一度、大勝負に出たら決着だろうな」


 そう言ったのだった。

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