第379話 志賀大和の気持ち 11

 スキル、《雷術)。

 これは術系スキルの中でもレアと言われるもので、持っている者は滅多にいないものだった。

 取得条件も不明だが、俺の……志賀家の一族には何故か発現しやすく、父、そして叔父もまた持っているものだ。

 そのため、使い方についてもそれなりの蓄積があり、俺はそれを父と叔父から色々と学んだ。

 冒険者高校に入る前から、しっかりと実戦で使えるくらいにスキルを研ぎ澄ませている人間は滅多におらず、スキルを仮に持っていたとしても、せいぜいがスキルが導くままに発動させるのが限界だ。

 だけど、俺は違う。

 発動速度、タイミング、位置などを完璧に頭に叩き込んで、ここぞという時に使うことまで出来る。

 だから、この一撃は外れない。

 そう思った。


 実際、天沢さんは俺の《雷術》スキルにより放たれた雷撃に反応できていなかった……ように思った。

 けれど。


「……へぇ、中々面白いのを持ってるんだな、大和くんは。ええと……こうか?」


 命中したはずなのに、ケロッとした顔でそう言い、そして驚くべきことに彼はその手元にバリバリとしたものを纏って観察している。

 まさか……。


「……《雷術》!? どうして……最初から持っていたんですか!?」


「はは、大和くん、模擬戦中にそういうことは答えられないな。それよりも、君はもっと心配しなければならないことがあるんじゃないか?」


 そして、天沢さんはその手を掲げてくる。

 俺にあれを放つつもりだ……。

 まずい!


 避けようと思ったが、《雷術》の特性を思い出して俺は思いとどまる。

 あれは、多少避けたところで人間に向かって走るから対応が難しいのだ。

 自分で使う分には大雑把な狙い方をしても命中率が高いメリットがあるが、相手から放たれればそれは途端に大きな不利となる。

 そのことは、父や叔父に使われて、アドバイスされた経験からも知っていたが、《雷術》を使う人間に遭遇する可能性はほとんど考えてなかった。

 いたとしても、いっぱしの冒険者の中にであって、冒険者高校ではまずあり得ないだろうと。

 ただ、奇妙な成り行きでまさにいっぱしの冒険者とこうして戦う羽目になってしまったから……。

 それでも天沢さんがこれを使えるなんて全く考えていなかったが……やっぱり世界は広いんだなと思う。


 ともあれ、とりあえず対処だ。

 避けても無駄なら受けるしかない。

 だから俺は《耐久力強化》スキルをかける。

 これは父と叔父に何度か《雷術》を放たれることによって取得できたスキルだ。

 《雷術》を受けることばかりに使ってきたからか、他の術系スキルや単純物理を受ける時よりも、《雷術》スキルのダメージを大きく軽減してくれる。

 だから、天沢さんのそれにも耐えられるはずだ……。

 俺が見るに、天沢さんの《雷術》はどうも、未熟というか、慣れていないように見えたから余計に。

 やはり、スキルを取れたのは高校を出た後、という佳織の話は正しかったのだろうか?

 だとすればまだやりようはあるはずだ……。


「あがっ……!!」


 そして、命中した《雷術》。

 その痛みは生半可なものではなかった。

 もちろん、《耐久力強化》スキルはしっかり効いてくれたようで、痛いと言っても気を失うほどまでのものではない。

 ただ、時間は非常に長く感じた。

 軽い拷問のようだが、ここで膝をつくわけにはいかない。


「……なるほど、耐えるか」


 天沢さんがそう言うと同時に、雷は引いていく。

 スキルの継続時間が限界に達したか……。

 しかし、俺はこの時点でほとんど満身創痍に近い状態になりつつあった。


「まだやれるか?」


 天沢さんがそう言ってきたので、俺は剣を構えることで応じる。


「まだまだ、ですよ……っ!」


 俺にはまだやれることが、ある。

 次はそれを出すときだ。

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