第378話 志賀大和の気持ち 10
天沢さんとどう戦うか、それについて佳織と色々と話し合ったが、結局明確な答えは出なかった。
一応のアイデアとして、スキルに慣れてない可能性があるから、その隙を狙う、というのがあるが……そこまで期待は出来ないだろうというのも分かってはいた。
ただ、何かしらの隙を狙う、という基本的な戦略は重要だろうとは思った。
学生でしかない俺と比べれば、遥かに格上あるのは間違いのない、天沢さんだ。
そんな彼に真正面から戦ってどうすると言うのか?
それこそ愚かな選択だろう。
であれば、搦手に頼るしか選択肢はない。
幸いというべきか、天沢さんは俺の、目の良さ、みたいなものを褒めてくれていた。
だから、それを真っ当に扱うのであれば……少しくらいは打ち合えるのではないか。
そのくらいの感覚だった。
加えて、俺にはまだ、誰にも見せていない奥の手もある。
ここで出すのは迷うところだが、見たところで、その対応を容易に考えられるようなものではないから心配はいらない。
そもそも、その存在自体は割と広く知られているものであるので、俺が使える、ということを知られてもそれほど問題はない。
まぁ、それでも冒険者の技能なんて全て隠せるなら隠し通した方がいいものだが……。
ともかく、やってやるさ。
そこそこに頑張ったと言われる程度には。
「どうした? かかってこい。開始のアナウンスはすでにされたぞ。先手は譲ろう」
天沢さんが剣を構えてそう言った。
彼が持っているものも、俺の得物も、どちらも模擬剣ではなく、真剣だ。
その理由は、ここ、闘技場にある設備による。
ある程度までのダメージは装置が自動で結界を張ってくれて、肩代わりしてくれるのだ。
ただ、そのある程度を超えてしまうとその限りではないが……俺が本気で打ち込んだところで、そこまでのダメージを天沢さんに与えるのは難しいだろう。
だから俺は遠慮なく、立ち向かう。
「ハァァァァア!!」
剣を振りかぶったまま、俺は天沢さんに向かって駆ける。
身体強化系のスキルは、今はまだ、どれも最下級のものしかない俺だが、それらでも上手く使えば侮れない威力を発揮することを俺は知っている。
発動時間、タイミング、それに強化割合などを理解し、時間差で使うのだ。
それによって、踏み切る瞬間に脚力を、振りかぶる瞬間、そして振り下ろす時まで腕力を強化するのだ。
これは何度も練習して……それでもまだ、アーツにはなってないものの、俺の必殺技、と言ってもいいものになっている。
実際、天沢さんは少し目を瞠って、俺の振りかぶりを受けた。
けれど……。
──ガキィン!!
と、いう音と共に、俺の渾身の一撃は弾かれる。
あまり、力を入れていない様子だった。
何もスキルも発動させているようでもない。
魔力の動きを感じないから、正しいと思う。
つまり、素の身体能力のみでそれをやっているということだ。
これが俺とE級冒険者との差か……遠いな。
しかし、だからと言って諦めるつもりもない。
俺はそのまま剣を構え直し、そして突きを入れる。
それもまた避けられたが、さらに薙ぎへと移し、その上で距離を詰める。
「……大和くん、やっぱりなかなかいいな! その調子だ」
天沢さんがそう言って俺の動きを褒めてくれる。
俺はそれを少し嬉しいと思ったが……やはり彼にとってまだこれは何も危険を感じない攻撃に過ぎないのだろう。
分かってはいるものの、悔しさが湧き出る。
だから、だろうか。
見せてやろうと俺は思った。
そもそも見せるつもりだったのだ。
天沢さんが俺の次の一撃を受けようと剣を差し出した。
その瞬間を狙って、俺は発動させる。
──スキル《雷術》!!
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