第248話 処分
自分の商売でこれだけ稼げるということは商才もあるのだろうな。
大貴族の家に生まれて、商才にも恵まれているとは羨ましい。
何も才能なんてなかった俺とは大違いだなと心底思う。
まぁ、今となっては《オリジン》という特殊すぎる才能?のようなものに恵まれたので、文句ばかりも言っていられないが。
ともあれ、このお金については……。
「では、ありがたくいただいておきます。他には何かありますか? なければお暇を……」
リリアの実践訓練を経て、俺が思ったのは、この世界の貴族は面倒臭そうだからとにかく避ける、であった。
基本的に何を頼まれても遠慮したほうがいいだろう。
可能な限り、距離を取る。
リリアに関しては、エリザとミリアが関わってしまっているので全く無関係になるというのも今更難しいところはあるだろうが、もう義理は全て果たしたと見ていいはずだ。
だからさっさと帰ろうと、そう思った。
「い、いえ、あの……」
「お礼はもらいましたよね」
「そうなのですが……」
「では、失礼しますね」
そして立ち上がり、扉に向かう。
そんな俺の背中に、
「あの、本当にありがとうございました! ハジメ様がいなければ、私は死んでいました……本当に」
と声がかかった。
初めに言ってくれれば、もう少し印象が違ったかも、と思うが……。
まぁ、でも、こう言っただけマシだろうと思う。
「いえ、お気になさらず。では……ッ?」
挨拶をしてそのまま部屋を出ようとした俺だったが、扉の外には何者かが立っていた。
「少し待ってくれないか、ハジメ殿」
そう言って現れた人物は……。
「お父様……どうしてここに」
と、リリアが言う。
なるほど、リリアが父と呼ぶ人物。
それが誰なのかは、はっきりとしている。
つまりは、エヴァルーク伯爵、その人であった。
******
大きい人だな。
というのが、俺がエヴァルーク伯爵を初めて見た瞬間の印象だった。
190近い身長に、鍛え上げられた肉体をしている。
今は別に鎧など纏っているわけではないが、武具を纏えば生えるだろうなという感じはした。
そんな彼は今、ソファに座っている。
俺はその対面に……リリアとエリザ、それにミリアは何故か追い出されて別の部屋に行かせられたので、俺たち二人しかいない……いや、執事らしき使用人もいるから三人か。
「……まずは、礼を言っておきたい」
一体何を言われるか、と身構えていた。
俺のリリアに対する態度はあまり良くないものだっただろうからだ。
しかしそんな俺に対し、伯爵から出た言葉は意外にもそんなものだった。
「何にですか?」
とりあえず尋ねると、彼は言った。
「もちろん、リリアの命を救ってくれたことだ、ハジメ殿。あの子の命が狙われたのは……どこまで事情をご存知かは知らないが、私のせいだからな。噂程度のことは?」
「ある程度は……」
後妻に狙われたんだろうとは口にはできないので、微妙な言い方になったが、伯爵は苦笑して、
「気を遣わせたな。すまない……妻のカロリーヌについては、すでに処分がついている。あれはエグライド侯爵の御息女でな。離縁というわけにも行かぬため、遠方にて蟄居させる。死ぬまで飼い殺しだな……」
意外にも厳しい扱いに驚く。
まぁそうなるだろうとは聞いてはいたけれども、妻なのだから甘い処分しかしないのでは、とも思っていた。
「……」
「本当にそうするか怪しいか? これはエグライド侯爵との間でも話がついていることだから、心配はいらぬ。そもそも、あれとの結婚自体、侯爵のゴリ押しだったゆえな。今回のことで流石にもう何も言えぬのだ……息子のクラルに関しては、何も知らなかったゆえな。本人は今回のことを知った後、処罰してくれと頼んだが……これはリリア自身がその必要はないと言った」
「弟思いでいらっしゃるのですね」
「基本的には、思いやりのある娘だ。だから……というわけでもないが、ハジメ殿にした失礼を許してほしい。代わりに謝罪する」
そう言って伯爵は頭を下げた。
貴族が、平民にだ。
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