第247話 報酬

「《看破のネックレス》ですか……」


 これは思ったよりヤバいのがあったものだな、と思う。

 他人の内心が分かる系統の魔導具は地球でもいくつか見つかっているが、それほど数は多くない。

 そもそも、人の精神活動はそう簡単に分析できないのか、そういった魔導具によっても詳細な心の動き、考えていることはわからないと言われる。

 ただ、嘘をついているとか、そういう限定された機能を持っている魔道具は、しっかりとその効果を発揮するのだ。

 《看破のネックレス》というものは地球では見つかっていないが、大雑把に嘘をついたかどうかわかる、という話からして、その効果は本当なのだろう。

 ここまでの会話で嘘をついていたら詰んでいたかもしれないな……なるほどこれが貴族かと思う。

 いや、俺が油断しすぎなだけなのかもしれないが。


「すみません、勝手に心を覗き見るようなことを……」


「いえ、私が嘘をついていないことを理解していただけたなら、構いませんよ」


 詳細な心の中で思ったことなどを見られていたというのならともかく、嘘をついたかどうかくらいなら、まぁいいだろうと思う。

 もちろん、これは俺が嘘をついていなかったから言えることだが。

 嘘をバリバリついていたら、そんなことをされたら困ると言うことになっただろう。

 まぁ今更な話だな。


「本当に失礼を……。本当でしたら、お礼差し上げるだけで良かったのですが……」


「礼の方は受け取りましたよ。命が助かって良かったですね。それで、私はもう帰っても?」


 若干、冷たい台詞になったのは、やはり少しだけ腹が立っていたからかもしれない。

 あと、ここに長居するとなんか良くないような、そんな危機感を感じた。

 しかしリリアはそんな俺に、


「い、いえ。まだお礼はお渡ししておりませんよ!?」


「そうですか? ありがとう、どういたまして、ということでもういいのでは……」


「言葉だけでは……まずは、こちらを」


 そう言って彼女がずい、とこちらに押し出してきたのは、何かが入った皮袋だった。

 まぁ、なんだかチャリチャリと音がするので、中身は想像がつく。


「ええと……」


「こちらは、解毒剤の代金になります。どうかご確認を」


 金なんかいいのに、と、最初の騙し討ちがなければ言っていたかもしれないが、色々と腹が立った部分があるので、そこは金で贖ってもらうのもいいかもしれない。

 何はともあれ、人間お金がないと生きていけないから……お金、お金があればそれで万事解決ですよ……。

 などと思いながら、品が悪いとも考えつつ、皮袋の中身を確認した。


「……ん? これは……」


 と、一枚、硬貨を取り出すと、それは金色にではなく、明るい銀に輝いていた。

 銀の輝きよりもさらに明るいというか……銀貨ではないな、これ。

 困惑していると、ミリアが、


「そ、それって……白金貨では……」


 と目を見開く。

 そう言われて、あぁ、これが、と思った俺だった。

 この世界の硬貨は主に、金銀銅貨と、それの半分の価値がある半金貨などがある。

 一般的な平民はこれだけを使って一生暮らしていくのだが、貴族や大商人となると事情が違ってくる。

 金貨のさらに上に、決済用の貨幣として、白金貨というものがあるのだ。

 これは金貨の十倍の価値があるとされ、素材もミスリルというものであるという。

 それが皮袋の中には百枚ほど入っているから……金貨千枚分か。

 となると、単純計算で一千万以上の価値があることになる。

 そんなものをポン、と払えるのが貴族というものなのか。

 いや、領主一族だから、それだけの金を持っているのかな。


「これほどの報酬を貰ってもよろしいのですか?」


 俺がそう尋ねると、


「それは私の個人的な資産ですから、問題ありません」


 と言ってくる。

 お小遣いがこれだけあるのか……貴族ハンパないな、と思ったが、そんなことを考えたと察したのか、リリアは、


「父からもらったお金、というわけではなく、私が自ら稼いだお金ですよ? もちろん、出資は受けているのですが、少しばかり商売をしておりまして……」


 そう言ってきた。

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